新富町 湯浅 湯浅 大輔 Daisuke Yuasa

輪郭が際立つ伝統料理

湯浅大輔氏が2019年2月に構えた「新富町 湯浅」。近年、上質な飲食店が増え注目を集めるエリア、新富町の一角に位置する。湯浅氏が一人で調理を行う小規模の店ながら、丁寧に作られた、そして中国料理の伝統と奥深い味わいをしっかりと伝える料理が評判を呼ぶ。

日本の旬を楽しめる中国料理を

2019年2月にオープンした「新富町 湯浅」。腕を振るうのは、オーナーシェフの湯浅大輔氏だ。湯浅氏が心がけるのは、「日本の旬を楽しめる料理」だという。と同時に、湯浅氏は伝統的な中国料理をしっかりと学ぶ修業を重ねた経験の持ち主。四川料理の名店「天外天」で3年間、伝統料理を得意とする実力店「桃の木」で4年半、フカヒレ料理で有名な「筑紫樓 銀座店」で4年間働き、幅広い技術を身につけてきた。

アルバイト時代にひかれた中国料理の世界

もともと、料理に興味を持つ子供だったという。「小学生の低学年の頃には、家で料理をしてくれていた祖母を手伝っていました。包丁を握ったのは小4の頃」。中学生になったら漫画の『将太の寿司』の影響で寿司職人を目指すように。ただし高校時代にアルバイトで働いたのは、地元の中国料理店。「一流店出身のシェフが腕を振るう店でした。ここで、大きな包丁で繊細な仕事をする中国料理の技に驚いて。どんどんこの世界に引かれていきました」。その後調理師学校に進学。中国料理を学んだ。

修業先では、それぞれの場所で印象深い経験をした。「天外天」では、伝統的な四川料理、特に細く切った蒸し鶏やシイタケ、ニンジンなどを、大皿に鳳凰や龍を描くように盛り付ける伝統的な宴席の前菜「拌盤(ピンパン)」に衝撃を受けた。「桃の木」では「私の料理人としての姿勢を作ってくれたのは、小林(武志)シェフです」と話すほどの深い学びを得た。「漫然と料理を覚えるのではなく、一つずつの工程で『なぜ、こうするのか』を、自分の頭で考えることが大事、と教わりました」。「筑紫樓 銀座店」では、大型高級料理店らしく、フカヒレはもちろん、ツバメの巣、なまこ、魚の浮き袋など、中国料理の高級乾物を多く扱った。さらに開業前の3カ月間は魚の仲卸「大力商店」で働き、魚に関する知識を磨いた。

その時々のベストに向き合っていきたい

湯浅氏が今作るのは、こうした幅広い経験に裏打ちされた料理だ。手間を惜しむことなく、たしかな技術で一つひとつの料理に明確な輪郭を与えてゆく。香辛料や調味料で思いきりメリハリをつけた品、スープのコクが際立つ品、伝統的な発酵食品を生かした品……。同店では主にコースのスタイルで料理を提供するが、その中でめくるめく味わいを楽しめるよう工夫を凝らしている。

  • 「新富町」湯浅の店内
    店内はテーブル席、個室2室、カウンター席。テーブル席とカウンター席からは、湯浅氏がオープンキッチンで調理する様子が見え、活気にあふれる
  • フカヒレ
    フカヒレは必ず乾物を戻して使用。天日干しする千葉・館山の生産者から仕入れる。今回用いたモウカザメのほかヨシキリザメ、アオザメ、メジロザメなどもそろえ、料理により使い分ける。

また、「素材については旬のものを自由に選びます。ただし味付けは、中国料理から外れたくない」とも話す。

中国料理、そして料理そのものに対する熱い思いを持ちながら、「店のコンセプトは特に設けないようにしています」と湯浅氏。「5年後、10年後に自分の技量は変わっているでしょうから。その時々のベストに向き合っていきたい」。そんな情熱、真剣、誠実さを感じさせる料理が、高い評判につながっている。

  • 湯浅自家製の四川の伝統的な漬物「泡菜」
    四川の伝統的な漬物「泡菜」を自家製する。「日本でいうと糠漬け」と湯浅氏。そのまま、あるいは刻んで調味料として使用。特に、トウガラシはさまざまに使えて重宝している。
  • 湯浅の自家製の調味料
    自家製の調味料を持ち帰りで販売する。ラインアップは、よだれ鶏のタレ、XO醤、辣油。プロの技、そして材料を贅沢に用いることで生まれる深い味わいで人気を呼ぶ。

Photo Masahiro Goda
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています