ドミニク・ブシェ トーキョー ドミニク・ブシェ Dominique Bouchet

日本は存分に腕を振るえる国

フランスを代表する数々のレストランでシェフを務めたうえで、自分自身が追求したい道を実現しているドミニク・ブシェ氏。その信念は、お客に正統なフランス料理の魅力を伝えること。そして次世代料理人、特に日本の若手料理人にフランス料理の技術と伝統を継承させることだと語る。

私の役割は、伝統的なフランス料理を次世代に伝えること

歴史的名店「トゥール・ダルジャン」、さらにパリのパラスホテルの中でも随一の格式を誇る「オテル・ド・クリヨン」の総料理長。ドミニク・ブシェ氏の経歴はまさにきらびやかで、フランス料理の王道を指し示している。そんなブシェ氏が個人として、本当に追求したい料理と店のスタイルを実現したのが、パリと東京・銀座、金沢にある店舗だ。

「ドミニク・ブシェ トーキョー」の内装は、「アパルトマン」がテーマ。壁で半個室様に区切られた空間で体験する食事は、まさにシェフの家に招かれたような印象。親密な空気感が心地よい。グレーを基調とした色合いもシックで落ち着きがある。 「ドミニク・ブシェ トーキョー」の内装

そして料理では、フランス料理の伝統の継承を強く意識する。「私の役割は、伝統的なフランス料理を次世代に伝えること」と、明確に語るブシェ氏。その信念を反映して、店では「エリタージュ」「ジェネラシオン」の2コースを提供する。――「エリタージュ」は、ブシェ氏の経歴の中で生み出された数々のスペシャリテを中心に構成される内容。まるで、フランス料理の栄光の足跡をたどるような格調と、ブシェ氏のセンスが融合した料理が続く。そして「ジェネラシオン」は、若手シェフたちとブシェ氏がともに作り上げるコース。ブシェ氏から継承したフランス料理の伝統を若手が受け止め、それをみずみずしい感性でどう表現するか、にフォーカスした内容。伝統を踏まえながらも、現代的なニュアンスをまとっている点が魅力だ。

和包丁も使いこなす親日家

こうして、長い歴史の中で磨かれてきたフランス料理の在り方に強い思いを持つブシェ氏だが、他国の文化に対して非常に開放的で、とりわけ親日家として知られている。2017年の9月にはパリの店に隣接して、日本の伝統工芸や手仕事を紹介する「WA SALON」をオープン。また、料理人としては和包丁を使いこなし、「必ず自分で研ぎます。ほかの人には触らせません」というほど愛着を持つ。 

料理では伝統を尊重。しかし一人の人間としては、他文化への好奇心が旺盛。この柔軟な姿勢と持ち前のエネルギーで、独自の道で前進を続ける。

若い人と働くのが大好きです!

料理に関しては伝統的なスタイルを尊重するブシェ氏だが、人としてはオープンな性格だという。

「幸運にもこうして日本に3軒を展開していますが、とにかく私は昔から旅行をすることが多い。最近は香港、オーストラリア、タイ、シンガポール、イタリア、スペイン……仕事でたくさんの国を訪れました。シェフは、旅をするべきです。でないと固定観念で、小さくものを考えてしまいます。私も旅先では発見が多く、インスピレーションもたくさん得ています」

そして年を重ねてもオープンでい続けられるのは、若い人と働くのがとても好きだからだと話すブシェ氏。パリの店も、東京の店とビストロも、金沢の店も、シェフは20代後半や30代前半の若者。ドミニク・ブシェ トーキョーの田中耕太シェフも31歳。皆、仕事に対する高いモチベーションを持っている。
ドミニク・ブシェ氏と田中耕太シェフ

「若い人のやる気、向上心が、私のチームの原動力になっているのです」

Photo Masahiro Goda
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています