エディション・コウジ シモムラ 下村 浩司 Koji Shimomura

フランス料理への誇り、そしてさらなる高みへ

六本木一丁目から徒歩1分の距離に位置する六本木ティーキューブの1階にある「エディション・コウジ シモムラ」。編集、版を意味するエディションの名は、料理以外にもすべてを自身で手がけていることを意味するという。そのオーナーシェフである下村浩司氏の、原動力とは。

フランス料理には、緻密に、ダイナミックに、構成する楽しさがある

師として仰ぐベルナール・ロワゾーさん(フランス・ソーリュー「ラ コートドール」)に、「お前は、決して満足しない」と言われたことがあると話す下村浩司氏。

「まさにその通り! いつも『もっと上』を目指していますし、じっとしていることがない。というか、できないんです(笑)。料理に関しても、常に『どうすれば風味がもっと鮮やかになるか?』『どうすればさらに立体的な味の構成が生まれるか?』『ヘルシーでありながら深みがあるデザートをどう作ろうか?』と自問自答し続けています。ああでもない、こうでもない、と考えるのが好きなんですね。もちろん、『どうすれば、もっと喜んでいただけるか?』『どんな演出がもっと可能か?』と、お客様目線を意識した問いかけも、いつも頭の中にあります」
修業時代の下村氏

加えて、新しいことに対するアンテナも常に張っている。料理やお店に集中する時間も必要だが、好奇心のままに動き回ることも大事。旅に出ることも多い。

「興味の先はアジア、ニューヨーク、北欧……この数年は、そんな感じです。アジアのスパイスやハーブを探して料理に生かすのが大好きですし、アジアの雑貨も、貝や木のナチュラルさが面白く、ついつい買い集めてしまいます。一方、北欧は街を歩いていてもショップに入っても、あらゆるもののデザインが本当にかっこいい。そんな北欧の雑貨も、料理の盛り付けによく取り入れています」

下村氏は、フランス料理の料理人であること、そしてその技術に誇りを持っている。とはいえ、スペインや北欧といった、世界のガストロノミーの流行も気になる。それで、実際にそれらの国に行くのだという。

「いくらかは『おっ!』と思う料理や店に出合うものの、腹の底から動かされることはなかったですね。人それぞれでしょうけど、やっぱり一番はフランス料理!と、僕は思います(笑)。緻密さ、ダイナミックさ、完成度、構成する楽しさ、奥深さ。何年取り組んでいても全然飽きない。僕にぴったりの料理です」

とにかく熱い日々だった、
ベルナール・ロワゾーのもとでの修業

「エディション・コウジ シモムラ」下村浩司氏

23歳の時にフランスに渡り、8年間修業した。その中でも、下村氏に決定的な影響を与えたのが、ブルゴーニュ地方のソーリューにあるベルナール・ロワゾーの店、ミシュラン三つ星の「ラ・コート・ドール」だ。

ロワゾーは、フランス料理のソースに大革命を起こした人。それまでソースに欠かせないとされていたバターやクリームを極力排除し、煮詰めたアルコールを多用することもせず、代わりに野菜のピュレなどを使い、ヘルシーかつ素材の風味を鮮やかに表現したソースを作り上げたのだ。

「そんな才能の持ち主で、カリスマ性と情熱のあるシェフの店でしたから、もちろん世界から働きたいという料理人が押し寄せる。厨房はもう、自己主張とプライドの強い料理人の集まりですよ。自分から前へ前へを出ていかなくては、すぐに埋もれてバカにされる。素晴らしいベルナール・ロワゾーのもとで働ける喜びと、テンションの高いチームの一員になる緊張感で、日々気が張っていました。僕は日本人の中では自己主張が強い方ですが、ここで、さらに鍛えられたと思います」