エステール マルタン・ピタルク・パロマー Martin PITARQUE PALOMAR

人にも地球にも優しい、新・フランス料理の追求者

東京を代表するホテルの一つであるパレスホテル東京。そのホテル内に、フランス料理界の巨匠、アラン・デュカス氏設立のデュカス・パリとパートナーシップを組んだレストラン「エステール」がオープンした。体にも環境にも優しい料理を作る、斬新なコンセプトの同店は、若きシェフ、マルタン・ピタルク・パロマー氏が厨房を率いる。

世にある「ヘルシーなフランス料理」とは一線を画す、新時代の技法と思想

2019年の11月、丸の内のパレスホテル東京内にオープンした「エステール」。その料理の特徴は、日本の気候風土を存分に反映したナチュラルな料理を、新時代の技法と思想で表現する点だ。

料理では野菜を多用するなど健康を強く意識し、新しい手法も多く活用している。例えば、野菜や魚介類から静かに抽出したエキスを煮詰めてソースを作ったり、風味が濃厚な野菜のピュレを料理に添えることで、インパクトがありながらも、油脂や糖分の使用を徹底的に抑えた皿を構築。すでに世にある「ヘルシーなフランス料理」とは一線を画す、技術の根本から練り直した品々を作り上げる。

さらに、今の時代に欠かせないテーマである“環境への優しさ”も料理で実現。例えば野菜であれば皮も使い切って丸ごと料理に生かすなど、食材を無駄にしない意識を隅々まで行き渡らせている。あくまでもハイレベルな味を追求しながら、人にも地球にも優しい料理を追求しているのだ。

新コンセプトのレストランのシェフという挑戦に対する喜び

この斬新な料理を東京で展開すべく、アラン・デュカス氏からの信頼を得てシェフを任されているのが、マルタン・ピタルク・パロマー氏だ。ピタルク・パロマー氏は、パリの「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」を経て、25歳でロンドンの「アラン・デュカス・アット・ザ・ドーチェスター」でエグゼクティブ・スーシェフを務めた。

「運が良かったのです。ただし、常に厨房の中で200%の力を出し、人の10倍は努力してきた自信もあります」

そんなストイックさと、食材や料理に対する鋭いセンスを備えているピタルク・パロマー氏。人柄も実にポジティブで、周囲を明るくする魅力を持つ。今回、新コンセプトのレストランのシェフという難しい役を務めるにあたっても、プレッシャーより、挑戦に対する喜びの方が優っているようだ。
「エステール」マルタン・ピタルク・パロマー氏

「エステールでは、まったく新しい料理を作りたい」と目を輝かせる。その開拓者精神と、料理に対するワクワクした気持ちが伝わってくるような、心を打ち、かつ今まで食べたことのないような料理が展開されている。

鴨は父との思い出の食材

鴨

ピタルク・パロマー氏はフランスの南西部に位置するロットという自然豊かな場所で生まれ育った。父は料理が大好きで、料理人ではなかったが、台所でよく料理を作ってくれたという。そんな父を手伝ううちに、自身も料理が大好きになっていった。

「父が作ってくれた料理で特に印象に残っているのが、フォアグラを詰めた鴨のロースト。凝った料理に聞こえますか? でも私の家では、鴨はとても身近な食材でした。なにしろ、父が料理で使うための鴨を庭で飼っていたのです。なので、鴨料理は私にとって家族との思い出の味。鴨は、特別な食材なのです」

冬のメニューに載せているのは、野生の国産の青首鴨。飼育のものもジビエも大好きというピタルク・パロマー氏が生み出す逸品の一つだ。

すり鉢はエステールの厨房に欠かせない道具

日本料理でおなじみのすり鉢だが、エステールの厨房でも大活躍している。食材の味をピュアに表現するために、野菜などをすりつぶしたピュレをほぼすべての料理に用いているが、そのピュレを作る際に欠かせないと話す。

「ピュレをミキサーで作ると熱で食材本来の風味が損なわれ、また空気も含むので風味が薄まります。その点、すり鉢は、より密度が高いピュレを作ることができる。油脂などに頼らない、ナチュラルで健康に優しい料理を旨とするエステールでは、食材の風味を最大に生かすことで、料理にメリハリを作り出します。そんな料理を可能にするのが、すり鉢なのです」

パリの「プラザ・アテネ」にあるアラン・デュカスのレストランでも、すり鉢は使っており、ピタルク・パロマー氏もそこで働いていた時に使い方をマスターしたそう。

「今ではエステールの日本人スタッフに、フランス人である私が、すり鉢の使い方を教えることもあるんですよ(笑)」
エステールの厨房で大活躍のすり鉢

Photo Haruko Amagata
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています