マサズキッチン 鯰江 真仁 Masahito Namazue

天才肌の料理人

あふれる活気、軽快なテンポ

活気に満ちたオープンキッチン。味に深みがありつつ、軽やかな料理。伝統とモダンがバランスよく織り込まれたコース。オープンから10年が経った「マサズキッチン」は、変わらず多くのお客の人気を集め続けている。元気なチームを率いるオーナーシェフの鯰江真仁氏は、節目を迎えてますます勢いに乗る。

フランス料理やイタリア料理からもヒントを

恵比寿に「マサズキッチン」を構えて10年超が経った鯰江真仁氏。「独立したのは42歳の時。厄年に何かをやろうと思って」と笑う。店内は、オープンキッチンを囲むカウンターに加え、テーブル席、個室を備えた造り。料理はコースで提供され、伝統的な品と創作的な品をバランスよく組み込んだ内容がテンポよく進む。「フランス料理やイタリア料理からヒントをもらうことも」という柔軟な考えで作られる品々は、軽やかで香り高い。

鯰江氏は、岐阜県の生まれ。高校時代に中国料理店でアルバイトをし、そのままこの世界に入った。しばらくは岐阜や名古屋で働き、その間に河田吉功氏と出会う。河田氏は、後にカウンター中華の先駆けとなる名店「文琳」を東京・神泉に開く料理人。その文琳で、鯰江氏は働くことになった。

文琳は、活気あふれるオープンキッチンのカウンタースタイルで、大皿盛りが主流だった時代に一人前ずつとする提供方法、そして確かな技術をもとにシンプルかつ軽やかに仕立てた料理で大人気に。

「文琳で、お客様の反応を見ながら料理をする楽しさを知った。会話を通じて広い社会を知ることができたのも、料理人として大切なことでしたね」
「マサズキッチン」鯰江真仁氏

河田氏のもとでは12年間働き、料理長も務めた。そんな経験を経て、2008年に独立した。

人間の幅を広げることが大事

店を10年続けた中で変わったことは? と尋ねると、「料理よりも、人ですね」と話す。今は厨房で7名ものスタッフがにぎやかに働く同店だが、一時期は人が足りなくて困ったことがあるという。

「それでじっくり考えました。やはり自分が変わらなくては。人として丸くなるよう努め(笑)、スタッフの働きやすさを優先するようになりました」

鯰江氏は、自身を「料理だけというより、いろいろと人生を楽しみたいタイプ」と評する。スタッフにも、「料理はあとからついてくる。人間の幅を広げることが大事」と話す。そんな鯰江氏のチームがカウンター内で立ち働くこの店は、ポジティブな雰囲気にあふれた空間。料理に加え、こうした活気もまた多くのファンの心をつかみ、魅了し続ける。

初めての男の子。生活が変わりました

「昨年の9月の終わりに、初めての男の子が生まれました。どの親でもそう思うのでしょうが、もう、かわいくてかわいくて(笑)。スマホで写真をたくさん撮り、待ち受け画面も子ども。これも、どの親御さんもなさることかもしれませんが(笑)」

そう話す鯰江氏。子どもが生まれて、生活がガラリと変わったという。店と家が近いので、ランチとディナーの間に一度家に帰り、夕方の5時にお風呂に入れるのが日課。その時に鯰江氏もお風呂に入り、体をサッパリとさせてからディナーの営業に向かうそうだ。

「以前はこの時間はジムに通っていたのですが、そちらはすっかりご無沙汰しています」
鯰江氏のお子さん

食べ歩きが好きなこともあり、以前はほぼ毎日外食だったそうだが、今は家で食べるように。

「やはり子どもと一緒にいたいですから。将来は料理人になってほしいかというと……つらい仕事なので、別の道をすすめますかね(笑)。ただ、私にとってはこの上ないモチベーションになってます」

ゴルフと旅行は、人生に欠かせない!

家に帰ったら、いっさい料理については考えないタイプという鯰江氏。「料理だけではない」ことが、人生において大切だと思っていると話す。

「特に私はゴルフが好きで、毎週の休みは基本的にいつもコースに出ているくらいなのですが、ゴルフを通じてさまざまな人と知り合い、社会を知ることができたのは自分の財産だと思っています。料理人は、なかなか厨房の外に出られない。うちはカウンターなのである程度の社会性を鍛えることはできますが、やはり外を知ることで、人間として成長できます」

「料理とは別の世界を持つこと」を、スタッフにも言い聞かせているという。なおゴルフとともに大好きなのが、旅行。長い休みには夫婦で海外に出かけているそう。一番繰り返し行くのはハワイとロサンゼルス。レストランにも行くが、ストイックになるというより、店を楽しむ感覚だそうだ。特に好きなのは、ビバリーヒルズの雰囲気という鯰江氏。

「ランチからお客さんが皆シャンパンを飲んでいたりして、陽気で楽しいんですよ。日本と違って、ダイナミックで開放的。そういう場に身をおくと、リフレッシュできますね。ただ、子どもが生まれたから旅行はしばらくはお休み(笑)。いずれは、一緒に行きたいと思っています」

Photo Masahiro Goda
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています