フィリップ・ミル 東京 フィリップ・ミル Philippe Mille

グランド・キュイジーヌの新星

シャンパーニュ地方のランスにある二つ星の名店「レ・クレイエール」の総料理長として活躍し、グランド・キュイジーヌの新世代を牽引するフィリップ・ミル氏が、2017年3月、自身の名を冠するレストラン「フィリップ・ミル 東京」を東京ミッドタウンにオープン。来日した氏に、料理に対する思いと東京の店で目指すことを聞いた。

料理とシャンパーニュの最高のペアリングを提供

フィリップ・ミル氏

2017年の3月に東京ミッドタウン内にオープンした「六本木テラス フィリップ・ミル」。シャンパーニュ地方の中心地、ランスを象徴する名店「レ・クレイエール」の総料理長、フィリップ・ミル氏の名を冠した店だ。正統派フランス料理の担い手として、現地の料理界で高い評価と注目を得ているミル氏。そんな氏の指揮によって作られる、フランス料理の正統と現代的感覚を融合させた料理を、繊細なものから重厚なものまでのさまざまなシャンパーニュとともに提供する。

「乾杯のお酒」という印象が強いシャンパーニュだが、造り手によって、また銘柄によって、前菜からメインの肉料理までに合わせることができる多彩な個性を持つ。そうしたシャンパーニュの魅力を知り尽くしているミル氏による料理が、料理とシャンパーニュのマリアージュを最大に高めている。

料理の世界に吸い寄せられる

フランス料理の正統を引き継ぎ、かつモダンな開拓精神も併せ持ったシェフとして、穏やかな人柄、誠実な仕事ぶりとともに絶大な信頼を得ているミル氏。

そんなミル氏は、「物心ついた時から、料理に引かれていた」と話す。

「家の周りは畑、という田舎に育ったのですが、幼い頃からそこで祖母や母の料理をよく手伝っていたそうです。3歳の頃、椅子の上に立って台所の手伝いをしていたのですが、バランスを崩して盛大に転んでしまったことがあったようです。母は『そんな時でも、あなたは鍋だけは手から離さずに転げ落ちたのよ!』と、今でも笑いながら話すんです」

地元ル・マンの料理学校を卒業後、最初にパティスリーで修業した。「料理とパティスリーは、全く異なる世界です。だからこそキャリアの初期にパティシエを職業としたことで、視野が広がりました」と話す。

精緻な構成、美しい盛り付けなど、今のミル氏の料理につながる感覚も、この経験をきっかけに獲得したという。
インタビュー中のフィリップ・ミル氏

卒業後、ミル氏はフランス料理界を代表する名店で、MOF(フランス国家最優秀職人賞)を保持するシェフなど、そうそうたる料理人たちのもとで働いてきた。「私がフランス料理の伝統や技術を大切にするのは、私が学んだ師匠たちも皆、そうしていたから」と、ミル氏。

「フランス料理という核を常に見失わないこと、時代に合った表現を開拓することの両方を大切にする。そうした師匠たちの姿勢が、自分を作り上げました」

また、パリの「プレ・カトラン」「オテル・リッツ」「ル・ムーリス」など、ガストロノミーのトップレベルでしのぎを削る、激しい競争の中でもキャリアを重ねた。特に「ル・ムーリス」では、当時のシェフ、ヤニック・アレノ氏が三つ星獲得に向けて邁進するというテンションの高い時期に、スーシェフとして厨房を指揮。フランス料理界の最前線で働き、料理人としての技術を深めつつ、チームを率いる実力を蓄えた。

そして満を持して、2010年に「レ・クレイエール」の総料理長に就任。歴史あるメゾンの格式を保ちつつ、新しい息吹を吹き込み、同店をミシュラン二つ星に引き上げた。

「シャンパーニュの造り手に近いこの場所が、とても気に入っています。野菜や肉などの農家にすぐに会いに行けるのも素晴らしい」と、ミル氏。レストランのチームだけではなく、地域の生産者とともにガストロノミーを作り上げるという姿勢を打ち出している。

日本の地で進化する料理

「フランスの食材と日本の食材は、当然ですが大きく異なります。私はずっとフランスの食材を扱ってきましたが、日本の食材にも素晴らしい個性、長所がある。それを今、どんどん把握しているところです」

また「フランスでも、地方ごとに郷土料理があり、その土地の素材があり、また土地に住む人々の気質、特徴がある。日本にも同様に、地方ごとに多彩な食があり、人がいるはず。それらを訪ね、理解するのが楽しみです」と話す。
フィリップ・ミル氏

ゆるぎないフランス料理の土台の上に、今まで重ねてきた経験、訪れた土地、そして時代に合った軽やかで繊細な感覚を映し出したミル氏の料理。ランスで多くのお客を魅了してきたこの料理が、東京の店を舞台にさらなる進化を遂げそうだ。

Photo Masahiro Goda
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています