トゥールダルジャン 東京 ルノー・オージエ Renaud Auger

フランスと日本の食文化の懸け橋に

グランメゾンの伝統

ホテルニューオータニにある「トゥールダルジャン 東京」。400年以上の歴史を持つ王侯貴族の美食の館、パリ本店の伝統を継承する世界唯一の支店の味を支えるのは、日本の人間国宝に近い存在といわれるM.O.F.(フランス国家最優秀職人章)を2019年に受章したシェフ、ルノー・オージエ氏だ。

2019年度M.O.F.を受章。今世紀初の快挙を成し遂げたルノー・オージエ氏

1582年にパリのセーヌ河畔で開業した「トゥールダルジャン」は、400余年の歴史を持つ王侯貴族の美食の館。各国の王侯貴族をもてなしてきた、フランスを代表するグランメゾンの一つである。その「トゥールダルジャン」の世界唯一の支店が、ホテルニューオータニにある「トゥールダルジャン 東京」である。

エグゼクティブシェフを務めるルノー・オージエ氏は、2019年にフランス料理界最高の栄誉とされるM.O.F.(フランス国家最優秀職人章)を授与された。日本在住のシェフとしては37年ぶりの受章という快挙でもある。

「トゥールダルジャンはフランス食文化の大きな柱。フランスと日本の食文化の懸け橋となれていることを、とても光栄に感じています」とオージエ氏は言う。
M.O.F.を授与されたルノー・オージエ氏

料理人一家に生まれて、幼少期から料理人を目指す

曽祖父は料理人。祖母もレストランを営んでいたというオージエ氏は、6歳から10歳ごろまで、学校が終わると自宅ではなく、祖母の店に顔を出していた。昼休みになると祖父が車で迎えに来て、祖母の店でお昼を食べるのだ。

「いつも祖母が盛り付けるので、それを自分のスタイルで盛り付け直してから食べていたのを覚えています。祖母のレストランで印象に残っているのは、お客様の楽しそうな笑顔や、祖母のお客様への心のこもったおもてなしです」

労働条件が厳しい時代で、客にとってレストランは、一生懸命働いた後に、おいしいものを食べに訪れるオアシスのような存在だったのだろう。

「時には店で歌ったり踊ったりするお客様もいて、私にとっては幸福感に包まれた、大好きな場所でした。学校にいても、早く昼休みにならないかな、と待ち遠しく思っていました」
ルノー・オージエ氏の昔の記録

そんな料理人の家系で育ち、幼い頃から「将来は料理人に」と決めていたオージエ氏。しかし、父親は料理人になることに反対で諦めさせようと、あえて厳しい三つ星レストラン「ジョルジュ ブラン」を紹介した。見事、この店で採用され、本格的な料理のキャリアをスタートさせる。さらに2年半後、エル・ブリが注目される中、先駆的なフランス料理の名手、ミシェル・トラマ氏に師事。その後、アラン・デュカス氏やフィリップ・ミル氏がシェフを務めた名店で修業を重ね、トゥールダルジャンパリ本店を経て、2013年に32歳という若さでトゥールダルジャン 東京のエグゼクティブシェフに就任したのだ。

「世界一といわれるワインセラーを持つレストランの唯一の支店のシェフとして、最も大事にしているのは、ワインに合う料理を作ること。そして料理とワインのハーモニーが、クライマックスに向けて高く、深く広がっていくことです」

Photo Masahiro Goda
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています