慈華 田村 亮介 Ryosuke Tamura

雄大、繊細、革新の調和

南青山の一角に2019年の12月にオープンした「慈華」。悠久の歴史の中で磨かれ、伝承されてきた中国の料理文化。それと、日本の風土や日本人の感性の融合をテーマとする。10年にわたり自店を営んできた田村亮介氏が、場所と店名を変えて新ステージで活躍。充実の時間を提供する。

日本人が作る中国料理とは何か?

「慈華」の田村亮介氏が作る料理の特徴は、中国料理の源流を感じさせる骨太なダイナミックさと、日本の季節感や日本人の感覚を反映する繊細さが同居している点。加えて、独自の考案による緻密で現代的な技術も見てとれる。

「私は中国の伝統料理と技術が大好きです。この文化に対する敬意は昔から強く、今後も変わらないでしょう」と田村氏。「その一方で、『日本人が作る中国料理』とは何か?という問いが常に心の隅にあります。それに対する私の答えは、『日本人の感覚と中国料理の融合』です。これは、当店のテーマでもあります」

  • 中国料理店「慈華」の看板
    「慈華」の名には、「素材を慈しみ、人を慈しみ、料理を慈しむ」という思いが込められている。食、素材、文化、風土など、料理を取り巻くあらゆる事柄への情熱を象徴する言葉だ。
  • 中国料理店「慈華」の店内
    「中国と日本の融合」というテーマを店づくりにも投影。日本をイメージした木目調と、中国の伝統的住居「胡同」を思わせる石の床を組み合わせた。個室1室と、テーブル席からなる。

中国料理を追求しつつも、日本人ならではの道を

田村氏が「日本人が作る中国料理とは何か?」という問いを自分に課すようになった原体験は、20代の後半に台湾で半年間働いた際、現地の料理人たちに「なぜ日本人のあなたが中国料理をやるのか?」と聞かれたことにある。

「それまでは、ひたすら中国現地の料理を追い求め、中国人料理人に負けたくない、なんなら中国人になりたい、と思っていた(笑)。その考えがひっくり返ったのです」

以来、中国料理を追求しつつも、日本人ならではの道を歩むのが必然だと考えるようになった。

「麻布長江」の長坂松夫氏から学んだ、四川料理の知識と技術

さて、田村氏の技術と料理のあり方を見てみると、強い火力とスピーディーな調理が作る勢いのある料理、巧みな油使いが生む多彩な食感、昔ながらの木製の蒸籠が作り出すぬくもりのある蒸し料理……などの中国料理の醍醐味といえる内容がそろう。と同時に、肉や魚を塊のまま調理し、柔らかさ、ジューシーさ、そして中国料理らしい熱量を併せ持つ仕上がりに持っていくなど、現代的かつオリジナルな火入れも。もともと中国料理は「火の料理」と呼ばれるほど多彩で完成度の高い加熱技術を持つが、そこに独自理論が加わることで現代的なニュアンスをまとったのが、田村氏の料理だ。

なお田村氏のベースを形作っている盤石な四川料理の知識と技術は、22歳の時から修業した「麻布長江」のオーナーシェフ、長坂松夫氏から学んだものだ。その後、32歳の時に長坂氏から店を買い取り、10年間「麻布長江 香福筵」を営む。「『これは自分の料理』と言えるようになったのは後半の5年間くらいでしょうかね」という。
中国料理店「慈華」の田村亮介氏

そんな時期を経て、2019年12月に満を持してオープンしたのが「慈華」だ。今までも10年間自店を営んできた田村氏だが、「慈華」では育んできたコンセプトをより明確に打ち出し、理想に邁進する。

新しい一幕を迎え、表現はより充実。厚みのある経験を経たうえで見せるさらなる進化に、注目が集まる。

  • 堀口切子の江戸切子
    目利きの間でも高く評価される堀口切子の江戸切子。その猪口を「日本を象徴するアイテム」として、紹興酒用の器とする。「中国のお酒と日本の器の融合、というコンセプト」。
  • 「慈華」の自家製カラスミ
    日本料理店でポピュラーなカラスミの自家製に、「慈華」も取り組む。兵庫、大阪、高知、五島などからボラを仕入れ、卵をとり、塩漬けののちに干す。写真は干しはじめから約1週間。

Photo Masahiro Goda
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています