リューズ 飯塚隆太 Ryuta Iizuka

食材の魅力を最大限に引き出す、それが飯塚流

六本木交差点から程近く、東京ミッドタウンのすぐそばに、飯塚隆太氏がオーナーシェフを務める「リューズ」はある。都会の喧騒を感じさせない、落ち着いた場所。店内はモダンながらもラグジュアリーな雰囲気の、ゆっくり食事を楽しめる空間が広がっている。さまざまな時の流れを紡ぐ上質な空間をつくりたいという思いを込めて、腕時計の重要な部品「リューズ」を店名にしたそう。そんな飯塚氏リューズを開業する前の時代の話や、彼が料理で一番大事にしていることについて伺った。

料理で一番大切にしていることは「素材への敬意」

「僕らはフランス料理の伝統的な仕事をしっかりと叩き込まれた、ほとんど最後の世代になるんじゃないか?」なんて話を、同世代の仲間とすることがあるという飯塚氏。フランス料理に対する思い入れは、やはり深い。

「僕の最初の修行先は大型ホテルで、運良くフォンを作る部署に入り、フランス料理のベースをしっかりと学ぶことができました。若手フランス料理人のコンクールにも積極的に挑んだし、その後はロブションさんのもとで働きながら伝統的なフランス料理と向き合い続けました。なので、料理人としての自分の核を作っているのは、フランス料理の技術です」

「ただ一つ誤解しないでほしいのは、だからと言って、いわゆる伝統的な、昔っぽいフレンチを作りたいというわけではありません」という飯塚氏。フランス料理の技術は、応用がとてもききやすい。現代的な軽い料理も作れるし、日本のみずみずしい素材に活用することもできるのだそう。

 実際、今、飯塚氏が料理で一番大事にしているのは「素材への敬意」。料理とは、素材のポテンシャルを最大に引き出すこと。その手段として、飯塚氏はフランス料理の技術を使っている、というわけなのだ。
調理中の「リューズ」飯塚隆太氏

トロワグロ時代の飯塚氏

タイユバン・ロブションで渡辺雄一郎氏と切磋琢磨

1996年オープンの「シャトー レストラン タイユバン・ロブション」では、オープニングスタッフとして肉部門のスーシェフに就任。26歳の時だ。その時、肉部門のシェフだったのが、今、ナベノ-イズムのオーナーシェフのナベシェフ(渡辺雄一郎氏)。

タイユバン・ロブション時代の飯塚氏と「ナベノ-イズム」渡辺氏

「歳は彼の方が僕より1つ上。僕もその頃は血気盛んで、フランス料理の現場で鍛えられてきた自信があるから、『立場が上だろうと年が上だろうと、実力がないヤツは認めない! 肉のシェフといったって、どんだけのもんよ!?』とギラギラしていて(笑)。でも、ナベシェフはすごかった。人として信頼できるし、料理人としても尊敬できることがすぐにわかったんです。それである日、思わず「ナベさん、あなたは僕が認めた最初の料理人ですよ」と伝えたんです。なぜか、営業中のバタバタに忙しい厨房で。向こうは『えっ!? 何!? 今!?』と戸惑っていたみたいですが(笑)」

それからは、よく二人で夜通し料理論議を戦わせたという。「どうやったら、ロブションさんが望むようなクリアなジュが作れるんだろうか?」「骨の焼き具合はこれでどうだろう?」「手順をこう変えてみたらどう?」……などなど、延々と試行錯誤。

「本当に厳しい職場でしたが、彼がいたからその厳しさも超えられたし、成長できた。まさに戦友です」
ジョエル・ロブション氏と渡辺氏