ピアット スズキ 鈴木 弥平 Yahei Suzuki

本当のイタリアンの旨さと力

麻布十番で15年以上にわたり、着実な人気を獲得している「ピアット スズキ」。さりげない店構え、ぬくもりのある店内、そしてオーナーシェフの鈴木弥平氏による料理が評判だ。肩の力が抜けていながら、鮮やかな味わいにハッとする――熟練の技と、食材に寄り添う優しい感覚の融合した料理が、お客をとりこにする。

基礎を形作ったのは「平田料理」

食べ慣れた人が多く集う街、麻布十番で、15年以上にわたってお客の支持を集めている「ピアット スズキ」。軽やかで、かつ腹の底から「旨い!」と言わしめる料理を提供し続けている。
 
35歳で同店を独立開業した鈴木弥平氏は、今50歳を超えたところ。修業時代を含めて30年強イタリア料理界で過ごしてきたことになるが、その間、日本のイタリア料理はダイナミックに変わった。

イタリア現地の料理を再現するのがよしとされた時期、カジュアルで軽い料理が好まれた時期、コンテンポラリーな表現が注目を集めた時期、その揺り戻しで土着的な郷土料理が人気を集める今……。そのすべての中に身を置きながら、鈴木氏はブレない姿勢を貫いている。それは、師匠であり、イタリア料理の名手と呼ばれていた「クチーナ ヒラタ」平田勝氏のもとでたたき込まれた料理が、鈴木氏の中に根付いているからだ。その内容とは、イタリア料理をベースに、自分の考えを反映し、日本の食材のよさを引き出した料理。柔軟でありながら、「おいしさ」という芯が通っている料理。「私の基礎を形作ったのは『平田料理』です」と鈴木氏は言い切る。 鈴木弥平氏の昔の画像

あくまでも味を最優先

「まだイタリア現地の味が絶対視されていた頃から、自由な味作りをしていました。余分な手間をかけず、食材の味を生かす――今、聞くと当たり前かもしれませんが、当時はそれを突き詰めた人はいなかった。そういう意味では斬新だったけれど、自分勝手ではなく、あくまでも味を最優先していた」

断じて和風イタリアンではなく、創作イタリアンでもないが、日本の食材に寄り添い、日本人の味覚にスッとなじむ料理。鈴木氏が独立開業する前、クチーナ ヒラタの支店、ヴィーノ ヒラタのシェフを務めていた時に考案した一品「スパゲッティ小ハマグリと青唐辛子のボンゴレ」も、まさにその系譜にあるものだ。

奇をてらわず、流行に流されず、かつ古びない。それが鈴木氏の料理であり、店作りだ。落ち着いていながら、生き生きとしている。そんな充実した食事のひと時を楽しみに、今晩もお客が足を運ぶ。

客との対決で鍛えられた!?

鈴木弥平氏の昔の画像

「私は19歳の時から4年間、『クチーナ ヒラタ』をオープンする前後の平田勝シェフのもとで働き、その後イタリアで4年間修業。帰国後は、平田シェフの2店目『ヴィーノ ヒラタ』のシェフを任されました。27歳の時です。最初は、『イタリアで学んだことを発揮するぞ!』『現地を感じる料理を作るぞ!』と張り切っていました。でも、日本の食材に寄り添った、シンプルで自由な料理を確立していた平田シェフが、結局私の料理に対して『こう変えたらおいしい』と指図をやめない。お客様も年上の食べ慣れた方々で、いろいろ意見や注文を言ってくる。もう、自分が作りたい料理どころではありません(笑)」

しかし、結果それで鍛えられたという鈴木氏。客の好みに合った料理を、即興で調節しながら作る。「対決」と言っては大げさかもしれないが、好みを投げてくる客に対して、気概を込めて応じるのが料理人の仕事。そこにやりがいを感じていたという。

なので、独立後も提供スタイルはアラカルトとし、お客様ご自身が食事を組み立てる方式に。

「ただ、近年はすでに組まれたコースを望み、あまり好みは主張しないお客様が増えたので、コースが主流となっています。少し寂しい気もしますが、時代の流れなのでしょうかね」

ヴェローナで「呼ばれた」ナイフ

イタリアに行けば街を散歩し、そんな中で目に入った厨房道具関係のお店には、やはり吸い寄せられてしまうという鈴木氏。このナイフも、3年ほど前にヴェローナで買ったものだとか。

「たまたま通りがかったのですが、コルテッレリア ファッツィーニという、かなり知られた包丁専門店だったようです。店先でこの赤い柄のナイフがパッと目に入り、呼ばれた気がして(笑)」

赤、白、黒の3色を12本ずつ、あるだけ買って帰り、「半年後に来るから」と、さらに用意しておいてもらったそう。
鈴木氏のナイフ

「肉用のナイフとして、イタリア料理店も含め、みんなフランスのラギオールのを使うでしょう? あれが個人的には受け入れられなくて(笑)。イタリア製のいいのを探していたので、見つけた時は『これだ!』と思いました」

赤い鮮やかな色と、スッとしたデザインがイタリアっぽい。テーブルに映えて、切れ味もよく、気に入っているそうだ。

Photo Satoru Seki
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています