モンド 宮木 康彦 Yasuhiko Miyaki

より豊かな食事の時間の創造を

自由が丘の静かな住宅地の一角に、オーナーシェフ宮木康彦氏の料理、ソムリエ田村理宏氏のサービスを求めお客が集うイタリア料理店「モンド」。そこには、心の込もった料理を核に作り出される、温かい時間が流れている。

仕事になると忘れがちな“感動”を大切にし、料理に向き合う

自由が丘の閑静な住宅街に、ひっそりとたたずむ「モンド」。オープンから10年を経た今、オーナーシェフ、宮木康彦氏の料理はますますシンプルになっている。食材の風味がみずみずしく生き、イタリア料理らしいぬくもりと、モダンな感覚が自然に調和。過度な主張やてらいは一切ない。「郷土料理をベースにしつつも枠は設けず、自分がおいしいと思う感覚を大切にしています」と話す。

そんな宮木氏の根幹にあるのは、「人に食事を作るのは、義務でもないし、作業でもない。気持ちを込めて作るのが何よりも大切」という思いだ。宮木氏がこのことを実感したのは、イタリアの北部、トレンティーノ・アルト・アディジェ州のリストランテ「オベラウト」での修業時代だという。

「抜群においしい郷土料理を作るこの店に、“マメ”というおばあちゃん料理人がいたのですが、彼女が本当にすばらしくて。まかないも、お客様への料理も、家族への料理も、全部同じ姿勢で取り組むんです。少しもぞんざいにせず、全部に気持ちを込める。そして、どれもがおいしい。“料理を作るって、こういうことだ”と、毎日感動していました」

しかし、「こんなに大事なことなのに、みんな、仕事になると忘れがち」とも。そうならないよう日々意識しながら、料理に向き合う。こうした宮木氏の積み重ねが、気負わず、それでいて深い印象を残す料理を生み出している。
「モンド」オーナーシェフ宮木康彦氏

ちなみに、自由が丘駅から徒歩約10分という立地は「イタリアの田舎にある、人がそこを目座して訪れるようなリストランテに近づきたくて。落ち着いた場所で、腰を据えて食事を楽しんでいただきたい」と選んだものだ。その思いの通り「モンド」に集うのは、“料理をしっかりと味わいたい”という目的を持ったお客。加えて、ソムリエの田村理宏氏がサービスとワイン、そして音楽で食事をもり立てる。

意欲的に、より豊かな食事の時間の創造に取り組む「モンド」。静かに、しかし確実に進化を続ける。

自身の料理への取り組みのベースとなる二人

宮木氏が「今こうやって、料理に取り組み続けられているベースは何だろう?」と改めて考えたときの答えは、やはり妻の志穂氏と、ソムリエの田村氏。この二人の存在に尽きるという。

「モンド」宮本氏と妻の志穂氏と、ソムリエの田村氏

「妻とは高校からの付き合いです。遊びすぎで卒業も危なかった私に毎朝電話し、通学を促してくれたり、レストランで働き始め、仕事がキツくてくじけそうな私に、きちんと目的を持って生きろと叱咤したり。厳しいんです(笑)。彼女はヘアメイクの世界で、早くから独立して働いている人。目的意識の持ち方、人としての姿勢を、私は職場から半分、妻から半分教わりました。今も、仕事への集中力や厳しさは彼女にかなわない。心の指針です。一方で、田村は型にはまらず、そして嘘がなく、ワインも料理も心からおいしそうにお客様に伝えてくれます。なので私も、誰よりも田村に料理をおいしいと言ってもらいたい。彼が納得してくれる料理だったら大丈夫。私の料理を導いてくれる存在です」

Photo Masahiro Goda
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています