ル・ブルギニオン 菊地 美升 Yoshinaru Kikuchi

料理人生、フランス一筋

2000年の開業以来、変わらぬ人気を集め続けている「ル・ブルギニオン」。オーナーシェフの菊地美升氏が作るのは、骨太さと温かさを兼ね備えたフランス料理。フランスへの愛情があふれる料理、ワイン、店の空気が、多くのお客を魅了してやまない。

フランス料理に対するブレない愛情

菊地美升氏が2000年にオープンした「ル・ブルギニオン」。「好きな料理は、はっきりしています。クラシックだけれども、現代的な感覚も生きている料理」と、菊地氏。開業20年を超える同店がオープン時から変わらない活気を保っているのは、フランス料理に対する菊地氏のこのブレない愛情があるからだろう。

そんな菊地氏の“フランス好き”のベースにあるのが、ブルゴーニュで修業した日々。「1店で最低1年」と決めてフランス修業を重ねていた菊地氏が3年目、3店目に訪れたのがブルゴーニュの「エキュソン」だ。厨房は、菊地氏より10歳ほど年上のシェフと菊地氏、あともう一人という規模。シェフとはことのほか気が合った。

「僕にどんどん『一緒に料理を考えよう』と言ってくれ、試作や意見のやり取りをたくさんしました。料理人としての自信がついた一年です」
「ル・ブルギニオン」菊地美升氏

ここでは、ワインにものめり込んだ。「休み時間、休みの日は、ほぼ全部ワイナリー巡り。見るからに畑仕事をし続けている、本当にごっつい手の生産者さんたちに話を聞いて、テイスティングして、仲良くなって……。楽しい思い出がいっぱいです」。

菊地氏の修行時代
1992年、二つ星「オステルリー・ラ・プーラルド」オーナーシェフとの記念写真。

帰国して店を開いても、“フランス好き”は止まらない。2003年からは、毎年店の夏休みにフランスに行き、レストランで研修を重ねている。行くのは、パリの三つ星や二つ星の店。

「他の研修生と一緒に、朝の7時からキノコの掃除をしたり、魚の鱗を引いたり。ただ営業中は、他の研修生とは別扱いで、ソースを味見させてくれたり、全体の動きが見やすい場所に呼んでくれます。それで、『ああ! やっぱりフランス料理っていいな! レストランは最高だな!』と実感するんです」 

このように、自身がワクワクしながらフランスを追い続け、好きな料理を作り続ける。そんな喜びが料理に、そして店にあふれているから、お客もまた幸福な気分になる。

温かなエネルギーに満ちている、菊地氏のフランス料理。この先もずっと訪れる人たちを幸せにし続けるはずだ。

函館愛と、母が作る鮭の飯寿司

故郷は函館の菊地氏。地元への愛情は人一倍強い。

「年に2、3回は帰って親の顔を見て、あと、地元の友達と飲んだり食べたり。過ごしたのは18歳までですが、函館は本当に大好きです」

実家は「菊地商店」という、食品からお総菜、お酒、雑貨まで幅広く扱う店を営んでいる。子どもの頃、両親は朝から夜まで忙しくしていて、店は日曜も営業。休日は元日のみ。そんな中でも母は料理が大好きで、手を抜かずおいしいものを作ってくたそう。そして、菊地氏はそれを食べるのが大好き。

「男三兄弟なので、餃ギョーザ子なんて200個も作るんです。それを長男の僕が100個食べるという(笑)。あと、土曜は学校から帰ってきたら、店からウィンナーなど好きなものをとってきて自分で炒めて昼ごはんを作ったりも。高校生の時は、自分と弟の弁当は僕が作っていましたね。そんな感じで、自然と食に親しむ環境にありました」

母親の料理は昔から好きだが、今も食べるたびにしみじみ感動するのが、冬に作る鮭の飯寿司やニシン漬け。

「北海道の郷土の味ですが、母が作るものは本当においしく、僕が通信販売を手がけたいくらい。菊地商店で売っているので、地元の知人や冬に函館に行く人には本気で勧めています」

気分転換は本。小説でもエッセイでも

菊地氏は気分転換に、よく本を読むという。例えばディナーの営業で料理を作り終わって一段落したら、ワインセラーにこもって読みかけの小説に手を伸ばしたり。ゲストのお見送りまでの、ちょっと空いた時間に読むのだそう。

「忙しい時は無理ですが、通常の時、本はとても身近な存在です。読むのは小説やエッセイが多く、ジャンルは問いません。『下町ロケット』、『ハゲタカ』のような現代物、『項羽と劉邦』などの歴史物、『ハリー・ポッター』シリーズなど海外物、村上春樹、吉田修一などのベストセラー作家、などなど。たまにテーマを決めて集中的に読むことも。去年は「近代を読もう!」と思い立ち、『金閣寺』『伊豆の踊子』『羅生門』を続けて読んだのですが、ちょっと進みが遅かった(笑)」

読んだ本は、手帳に題名をメモしておく菊地氏。

「書いておかないと、意外と忘れてしまうでしょう? 去年読んだ本、一昨年読んだ本の一覧を見直すのもまた、楽しいものです」
菊地氏の本とメモ帳

Photo Masahiro Goda
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています