Wakiya 一笑美茶樓 脇屋 友詞 Yuji Wakiya

国境も国籍も超えて愛される中華

今から20年以上前、中国料理に旬の食材を取り入れ、銘々盛りを始めた「Wakiya 一笑美茶樓」の脇屋友詞氏。現在ではポピュラーとなったこの感覚を大々的に打ち出したのは、脇屋氏が最初だった。その後も料理界の最前線を走り、国内外で活躍。還暦を迎えた今なおエネルギッシュに活動し、中国料理の可能性を広げ続けている。

トップランナーの叡智

日本の中国料理を代表するシェフである、脇屋友詞氏。1996年の「トゥーランドット 游仙境」のオープンで、日本の中国料理シーンは一気に塗り替えられたと言っても過言ではない。旬の食材をふんだんに使った、創作的かつモダン、しかもおしゃれな雰囲気をまとった中国料理は、脇屋氏のトゥーランドット以前にはなかったものだ。

脇屋氏はもともと赤坂山王飯店、東京ヒルトンホテル、キャピトル東急など、伝統的な中国料理の名門と呼ばれる店でしっかりと修業を重ねた経験の持ち主。とりわけ上海料理への造詣が深い。そのため、伝統的な中国料理の魅力と長所を十分理解したうえで、現代のお客に合わせた変化を中国料理にもたらすことができた。

脇屋氏がもたらした変化とは、例えば、料理を銘々盛りにする、野菜をたっぷり使う、海鮮の蒸し料理などヘルシーなメニューを前面に出す、デザートに力を入れる、という具合。その結果、お客から愛され続けるスペシャリテが多く生まれた。

マコモダケに牛肉を巻いて甘辛味で煎りつけた「マコモダケの牛ロース巻き」、蒸し料理の仕上げに凍頂烏龍茶をかけ、客前で一気に香り立たせる「海鮮の清香」、ネーミングも秀逸なデザート「とろとろ杏仁」「するする杏仁」などが知られている。
脇屋友詞氏

正統を継ぎながら、新機軸を打ち出す

その一方で、伝統的中国料理が持つ骨太な魅力、迫力や深みのある料理もメニューに載せ、「正統を継ぎながら、新機軸を打ち出す」というバランスを実現した。「お客様に喜んでいただきたい。中国料理の魅力を、多くの人に伝えたい」という一心で新しい試みを続ける姿は、パワフルそのもの。伝統的バックボーンと、旺盛なサービス精神の両方を持つ料理人はまさに最強だ。

「ここ数年、台湾のホテルに技術指導に行くようになったんですよ」と話す脇屋氏。日本人が本場で、中国人に、中国料理を教えるというのは、実に大きな快挙である。伝統を踏まえながらヘルシーで、現代の人たちの舌においしい料理は、国境も国籍も超えて人気。脇屋氏の活躍は、まだまだ続く。

お茶から茶器へと関心が広がって……

2000年くらいから日本でブームになった中国茶。脇屋氏もその少し前から個人的に中国茶のファンになっていて、次第に台湾や香港、杭州に買い付けに行くようになっていたとか。そうなると茶器もコレクションするようになり、宜興(ぎこう)という、上海や杭州から少し内陸にある陶器で有名な街まで買いに出かけるように。

「有名な作家さんの、結構値段の張るものも買ってしまいましたね。写真の中の、大きい二つが宜興で買ったもの。形の美しさ、表面のなめらかさが格別です」

一方、台湾では小さい急須を使う。コロンと丸い、あるいは平らなどいろいろな形があるが、これは丸くもんだ茶葉、葉が開いたままの茶葉、それぞれに最適な形なのだとか。なので、贅沢ですが、お茶の種類ごとに急須が決まっているのが本式。そして高級なものは空気も漏らさないほど蓋と本体が付き、密封性があるようで……「そんな上質なものに出合うと、ついまた買ってしまいたくなります(笑)」。
脇屋氏の急須

マコモダケには、思い入れがある

マコモダケ

「私が20代でまだ修業中の頃、今から30〜40年前になるのですが、マコモダケは台湾と中国から輸入していました。それが、今は日本で作っている農家さんがいっぱいいる。マコモはイネ科の植物で、お米を作っている田んぼで同様に育てられています。私も産地には何度も行きましたが、きれいな水の中にトウモロコシのようにスッと立っている姿がすがすがしい。刈りたてをすぐに折って食べると、甘くておいしいんですよ」

10〜11月は、甘みが凝縮した生のマコモダケを食べられるシーズン。店でも、スライスしてサラダに仕立てたものを肉料理の付け合わせにたっぷりとつけるなどして出しているそう。

「農家さんが勉強して、きちんと開発して、フレッシュなマコモダケが随分と手に入りやすくなった。であれば、料理も進化しなくてはいけません」

トゥーランドットをオープンした20年ほど前に、脇屋氏は「マコモダケの牛ロース巻き」という料理を考案、これが大ヒット。

「なので、もう何十万本もマコモダケを使っていると思います(笑)。ただ、実際にうちの店で使うというより、マコモダケの知名度を上げたという意味で、農家さんに貢献できたかな。それが何よりもうれしいですね」

Photo Satoru Seki
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています