招福楼 東京店 中村 成実 お茶の道具を、アジアで探す

私は表千家の茶道をやっておりまして、北海道から九州まで全国に仲間がいます。そうした仲間が折々に開く茶事に集まり、各地の料理をいただくのがこの上ない楽しみです。料理人の料理というものはどうしても似てしまうのですが、生活に根ざしている主婦の方、ご主人の方のお料理には特色がある。土地ごとの手料理を食べると、目から鱗が落ちることが多々あります。

こうした仲間と、海外に旅行するのもまた充実した時間です。ベトナムやラオスに行ったことがありますが、最大の目的は、お茶の道具を見つけ出すこと。海外の全くお茶っ気のない環境の中から、自分たちのセンスで見つけるのが楽しいのです。骨董市を訪ね、これは炭取に、菓子器に……と選び、互いに戦果を見せ合う。そして帰国して箱を作ると、それらしい道具になる(笑)。

でも実際、お茶の道具の本質というのは、名人が作ったかどうかではなく、どんな機会で見みい出だされ、どれだけ長く、どう大切に引き継がれてきたかにあるのです。物そのものではなく、どれだけ人の気持ちが入っているかが大事。お茶のそうした考え方は、目に見えるもの、目先のものばかりに注意が行きがちな私たちの生活に別の視点を与えてくれる、本当に貴重なものだと思います。

中村 成実

招福楼 東京店 中村 成実

Shigemi Nakamura
1955年、滋賀県生まれ。「招福楼」の主人である中村秀太良氏の次男として生まれる。学生時代は妙心寺霊雲院にて小僧として過ごし、その後得度。80年より家業に戻り、92年より4代目を継ぐ。
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