リューズ 飯塚隆太 ノルウェーサーモンの「生」な味わい

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ノルウェーサーモンが六本木のフレンチレストラン、リューズにやって来た。
水揚げから36時間で日本に届く生のサーモンを、飯塚隆太シェフはどう料理するのか。
ノルウェーの伝統料理とフレンチのマリアージュにスコール!

世界中で愛されるノルウェーサーモン

フィヨルド
深い水深と長い奥行きのあるフィヨルドには、山岳地帯の雪や氷河が溶けて流れ、澄んだ海水と混じり魚が育つ絶好の自然環境が整っている。

山岳地帯の雪や氷河が溶けて流れ込むフィヨルドの海は、深く冷たい。しかし冬場も凍ることはない。北極海を流れる暖流、メキシコ湾流のおかげで一年中、安定した水温を保ちながら、澄んだ水をたたえているのだ。ノルウェーサーモンは、この魚が育つ絶好の自然環境の下、湾内に設置された広々とした養殖いけすの中を伸び伸びと泳ぎ回る。クリーンな生育環境とストレスフリーの暮らしと十分な運動量……三拍子そろって、目にも鮮やかなオレンジがかったピンク色の、身の締まった、おいしいサーモンがつくり出されているのである。

ノルウェーサーモン
ノルウェーの冷たく澄んだ海で養殖されているサーモン。そのうまさの秘密は自由に泳ぎ回れる十分なスペースで育てられていることにある。

ノルウェーがサーモンの海洋養殖に取り組んだのは、50年ほど前のこと。ノルウェーの人口は、日本の20分の1であるため、自国消費というより輸出水産物として、政府といくつかの水産会社が協同で研究する形で始まったというわけだ。やがて世界各地でおいしいと人気が出て需要が広がった。

ノルウェーの漁業で特徴的なのは、常にサステナビリティを念頭に置いていること。乱獲により水産資源を減少させないよう、その年の状況に応じて漁獲量の枠を設ける、漁獲時期を制限する、あるいは餌のやり過ぎ等で養殖場の海を汚さないなど、 “エコ漁業”を貫く。サーモンについても養殖池の大きさや隣り合う養殖池との間隔などが厳密に決められているほか、「養殖ネット一つ当たりで魚の量は2. 5%、水の量は97. 5%」といった規定もある。養殖密度はほかの産地の半分以下。鮭が自由に泳ぎ回れる環境が整えられている。

  • サーモンの養殖ネット
    フィヨルドに点在するサーモンの養殖ネット。そのスペースは十分であり、魚の量が2.5%に対して水の量が97.5%と決められている。
  • サーモンの梱包
    ノルウェーでは、サーモンの水揚げから梱包までの時間をできる限り短くすることで、新鮮で高品質なものを安定して提供することができる。

そうして大切に育てられたノルウェーサーモンは、ここ10年ですしのネタとして定着するなど、日本でも大人気だ。キーワードは「生食」。他地域のサーモンは輸送に時間がかかるため、いったん冷凍される。解凍した魚は微妙にうまさが損なわれるのは周知の通り。しかしノルウェーサーモンは、空輸により水揚げから36時間で日本に届けられるので、冷凍は不要。輸送の間にちょうどいい具合に熟成され、食べごろのものがレストランの厨房やスーパーの店先に提供される。新鮮さにおいてノルウェーサーモンの右に出るものはない。

  • ノルウェーサーモン
    EPAやDHAを始め、ビタミンAなどの栄養素が豊富なノルウェーサーモン。政府機関が定めた高度な品質管理システムのもと世界各国に輸出される。
  • ノルウェーサーモン
    養殖ノルウェーサーモンは、世界で最も人気のある魚の一つである。毎日1400万食ものサーモンが世界中の食卓に上っている。

料理のテーマは「ノルウェーとフレンチの融合」

新潟県出身、フレンチの定番食材の一つでもある鮭を知り尽くしているリューズの飯塚隆太さんによると、生のノルウェーサーモンは、「生でそのまま食べてもおいしいけど、しっかり目に塩を当てるとか、下味をつけるとかすると、いっそうおいしくなる」そうだ。余分な水分を抜くことによって身が締まり、脂っこさもほどよい感じになる。またソテーする場合も、サーモンピンクがちょっと赤みを帯びてくるくらいの、生に近い焼き加減のほうが、しっとりとしておいしいという。鰹のたたきのように、表面をあぶって適度に脂を落として食べるのもおすすめとのこと。

さて今回、リューズの飯塚さんが手掛けたノルウェーサーモン料理、テーマは「ノルウェーとフレンチの融合」である。
リューズ・飯塚隆太シェフ

例えばコンフィに使ったホウレンソウとクリームチーズのスープは、ノルウェーの伝統料理。それにフレンチでよくサーモンと合わせるオゼイユを散らした。またすし風に、トリュフや青リンゴ、セロリ、メネギなどを生のサーモンで巻いた料理には、グラブラックスというノルウェー料理からイメージした、ハチミツとマスタード、ディルをオリーブでつないだ甘酸っぱいソースを添えた。「今が旬の黒トリュフは意外とサーモンと相性がいい」という。

サーモンのコンフィにホウレンソウのスープを注いで オゼイユの酸味とともに

リューズ・飯塚氏の料理「サーモンのコンフィにホウレンソウのスープを注いで オゼイユの酸味とともに」
「ノルウェーサーモンだからノルウェーの伝統料理スピナットスッペというスープと合わせました」 と言いながら、色鮮やかなこの料理を運んできた飯塚隆太さん。ホウレンソウとタマネギとクリームチーズのスープにサーモンのコンフィを浮かべた。 酸味のあるオゼイユ(スカンポ)の葉とレモンが優しい味わいにパンチが効いている。パリパリに焼かれたサーモンの皮とスピナットスッペ風のスープが飯塚フレンチに仕上がっている。

フレッシュサーモンのルーレをトリュフの香りで グラブラックスソース

リューズ・飯塚氏の料理「フレッシュサーモンのルーレをトリュフの香りで グラブラックスソース」
瞬間的に塩を当てた生のサーモンで、トリュフ、青リンゴ、セロリ、メネギなどの野菜たちをくるり。酸味と甘み、柔らかな食感とシャキシャキ感が溶け合うさわやかな味わいだ。「サーモンは野菜や果物ともよく合うので、意外かもしれませんが野菜を多めに使いました」と飯塚さん。

さらに牡蠣をサーモンでくるんだ料理は、フレンチのシェフたちがよくアミューズとして供するもの。海水のジュレでフィヨルドの海の味が表現されている。いずれもフレンチをベースにノルウェーの伝統的な味わいをプラスした“ノルウェー・フレンチ”とも呼ぶべき逸品たちだ。ノルウェーサーモンとフレンチは「おいしいマリアージュ」を果たしたのである。

スモークサーモンに包まれた牡蠣を海水のジュレとともに

リューズ・飯塚氏の料理「スモークサーモンに包まれた牡蠣を海水のジュレとともに」
さっと火を入れた牡蠣(佐賀県産)をスモークサーモンで巻いた一品。 牡蠣が殻に内包していた海水のジュレと絶妙なハーモニーを奏でる。ジュレと牡蠣、そして生のサーモンだからこその「海の味わい」が堪能できる。フレンチではサーモンと牡蠣をよく組み合わせて使うそう。

ちなみにサーモンは、もともとフレンチでよく使われる食材だ。飯塚さんももう20年来、スモークサーモンを手作りしている。「フランスのミネラル豊富なゲランドの荒塩1㎏に対して砂糖を500gと胡椒を加えて24時間マリネし、さらに1日冷蔵庫で寝かせて乾燥させ、2.5~3時間スモーカーにかける」のが飯塚流。砂糖による浸透圧効果も手伝い、いい感じの塩加減になるという。この手法で料理されたノルウェーサーモンの燻製もまた、実にうまかった。

リューズ・飯塚氏の料理「ノルウェーサーモンの燻製をタルティーヌに」
サワークリームを合わせたバターとライ麦入りのカンパーニュ、 ホースラディッシュ、ディル、フェンネルなどがサーモンと一体になっておいしさを演出する。「スモークサーモンを手軽に食べるのなら、この組み合わせがやっぱり抜群」と教えてくれた飯塚さん。

ノルウェー水産物審議会 
www.seafoodfromnorway.jp

Photo Masahiro Goda Text Junko Chiba
※『Nile’s NILE』2017年9月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

飯塚隆太

リューズ 飯塚隆太

Ryuta Iizuka
1968年新潟県生まれ。専門学校卒業後、「第一ホテル東京ベイ」「ホテル ザ マンハッタン」等を経て、94年「タイユバン・ロブション」の部門シェフに就任。97年に渡仏し、「トロワグロ」「ジャンポール・ジュネ」等で修業。帰国後、ジョエル・ロブション氏の系列店で研鑽を積み、2005年「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」のシェフに。11年「レストラン リューズ」をオープン。12年版『ミシュランガイド東京』で一つ星、13年版以降は二つ星の評価を得ている。
このシェフについて