リストランテ ホンダ 本多 哲也 “ホンダ流”夏の冷たい料理

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「リストランテ ホンダ」夏の定番の冷たい一品

2004年のオープン以来、現代的イタリア料理の第一人者として実力を発揮するリストランテ ホンダのオーナーシェフ、本多哲也氏。早くから国産の食材を積極的に取り入れ、旬を反映した繊細な料理を創出。シンプルながら入念に構成された料理で、お客の期待を上書きする新しい表現を提供し続けている。

近年、「より自分が食べたいものを作るようになった。その傾向が加速しています」と話す。オープン当初の14年前は、現代性を追求する本多氏であっても「イタリア料理はかくあるべし」「伝統から外れてはいけない」という心理的ブレーキから完全に自由というわけではなかった。「でも、今はもっと自分を信頼しています。好きなもの、今注目しているものを追っても、イタリア料理の看板と矛盾しないものを作れる自信がある」と胸を張る。

時代も変わった。

「冷たいパスタにしても、もともとイタリア現地にはないものです。日本で独自に発達したと言ってもいいでしょう。でも、今ではイタリア本国でも現代的な表現に挑むシェフは
冷たいパスタに積極的です」 

日本の料理人への注目度も高い。

「海外のお客さまは特に、『イタリア料理を日本人がどうアレンジしたか知りたい。それを食べに来ているんだ』とおっしゃいます」

自身の心境の変化に加え、こうした状況にも後押しされ、本多氏はより柔軟かつ素直に日本らしさ、自分らしさを追求するようになった。

リストランテホンダのビーツのカッペリーニ

今回作ったビーツのカッペリーニは、同店の夏の定番の冷たい一品。「夏のビーツは意外と甘みがある」というところから発想した。ビーツのジュースをベースに、ミカンのペースト、トマトなどを加えたソースでカッペリーニを和えると、きれいな真紅に染まる。そこに組み合わせるのは、薄くスライスしたボタンエビ、セロリのせん切り、タマネギ、エシャロットなど。ねっとりとした甘みのある生エビは、同じく甘みのあるビーツと共鳴しつつリッチな味わいを添える。セロリは、ビーツの香りが土臭さに傾きすぎないよう、清涼感でバランスをとってくれる。シャキシャキとした食感もアクセントだ。

カッペリーニもソースもキリッと冷やしておき、仕上げにレモン汁で味を調える。高さを持たせて盛り付けたら完成だ。風味のみならず、見た目、温度、食感でもコントラストとバランスを構築し、かつ季節感も反映。まさに本多氏らしい夏のスペシャリテだ。

日本料理ではおなじみのハモをシンプルに

リストランテホンダのハモ料理

一方ハモの料理では、日本の夏を代表する素材であるハモそのものの持ち味をクローズアップ。かつ、南欧の郷土料理特有の、どこか明るく大らかな要素と調和させている。

湯引きしてから軽く炙あぶったハモは、日本料理ではおなじみの、ハモをシンプルに楽しむスタイルだ。その下に敷いているのが“ハモのブランダード”。ブランダードとはスペインの郷土料理で、干しダラをもどし、オリーブオイルなどとともにマッシュポテトとなめらかに混ぜ合わせた料理。干しダラの代わりに、穏やかに火を入れたハモで作り変えた。

「ハモは旨みが豊かだけれども、決して個性やクセが強いわけではない。そんな繊細な旨みがブランダードのホッとする味わいで仕立てることで、新しい一面を見せるのでは」

その狙いの通り、しっとり、ほっこりとした味わいの中で、ハモの旨みが増幅して感じられる。

伝統と現代性、両方を自然体で一皿に落とし込む本多氏。「肩ひじ張ることはなくなったけれど、悠々というわけでもない。好奇心は衰えませんし、勢いある若手の料理に対する興味も津々」と話す。時代に対する感覚も磨き続けている。

本多 哲也

リストランテ ホンダ 本多 哲也

Tetsuya Honda
1968年神奈川県生まれ。東京調理師専門学校卒業後、「リストランテ トゥーリオ」などで経験を積み、97年に渡仏・渡伊。イタリアの三つ星レストラン「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ本店」などで修業後、99年に帰国。「リストランテ アルポルト」にて副料理長を務めた後、2004年に「リストランテホンダ」をオープン。『ミシュランガイド東京』で一つ星の評価を得た。 
このシェフについて