リストランテ ホンダ 本多 哲也 尾崎牛―そのあふれる滋味を料理する

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尾崎牛のランプのおいしさを最大に表現

リストランテ ホンダで使う牛肉は、尾崎牛のランプと決まっている。「出合ったのは5年ほど前。友人シェフの店で食べて『これだ!』とほれ込んだ」と本多哲也さんは話す。

日本では長く牛肉といえば「サシ」、つまり脂ののりが重視されていたが、12年前に店をオープンした当初から本多さんは、赤身の旨さをお客に伝えたいと考えていた。そこで、牛肉の中でも脂の少ない部位であるランプに絞って理想の肉を探していたが、当面はその時々の上質なランプを仕入れていたという。こうして全国各地の産地の肉を食べ比べるうちに、「赤身の旨みがパワフルで、脂は融点が低く胃にもたれず、かつ上質でマイルドな風味。肉質は繊細でありながら、しっかりとした質感」という求める肉のイメージが定まった。そんな中で出合ったのが、尾崎牛だった。

リストランテホンダの尾崎牛の料理
尾崎牛ランプ肉の塊をじんわりと炭火で焼き、十分に休ませてから厚切りに。尾崎牛の赤身ならではの深い旨みを存分に楽しむ一品、「尾崎牛のタリアータ」だ。紫マスタード入りのピュレ、リンゴの自家製モスタルダ(マスタード入りのシロップ漬け)、焼いた春野菜、ルッコラのピュレを添える。

尾崎牛を使い続ける理由は「質の良さ」と「日本らしさ」

その後、世のヘルシー志向が強まり、牛肉はサシよりも赤身に注目が集まるようになった。本多さんの好みと合致する「赤身の旨みの強い牛肉」が人気を集めるようになったが、「やはり、赤身なら何でもいいわけではなく、しっかりと育てられた牛の赤身だからこその旨さがある。尾崎牛は、その点で絶対的に信頼できる」と本多さんは言う。

尾崎牛を使い続ける理由として、本多さんが「質の良さ」の他に重視しているのが、「日本らしい」という点だ。日本の牛、すなわち「和牛」と呼ばれる牛の品種は4種類あるが、代表格は黒毛和種。尾崎牛も、黒毛和種を独自の飼育方法で質を高めたブランドの一つである。黒毛和種の最大の特徴はサシの入りやすさであり、脂の甘みである。一方、イタリアを代表するキアナ牛を始めとするヨーロッパの牛は赤身にサシが入ることがなく、そのため赤身の旨さがよりストレートに感じられる。

「正直、イタリア料理の料理人として、『日本の牛肉はイタリアと全然違う!』と思った時期もありました。でも、日本の素材でしか表現できないおいしさもある。今は、イタリア料理の骨格を理解した上で、それを日本の食材の魅力を伝える方法として活用する、完全に、日本の食材に寄り添う方向を目指しています」

実際、ランプはサシの少ない部位ではあるが、黒毛和種である以上、イタリアの牛に比べたらサシはしっかりと入っている。

「でも、それが日本の牛なんです。私がしたいのは、赤身がしっかりと旨く、サシもある程度入った尾崎牛のランプのおいしさを最大に表現すること」

尾崎牛を幅広の生パスタとともに味わう「尾崎牛と黒キャベツのラグー パッパルデッレ」。尾崎牛のランプの塊肉を煮崩れないようひもで縛り、焼き色をつけてから肉の出汁で2~3時間煮込んだ。一緒に煮た黒キャベツは国産で、優しく甘い味わい。尾崎牛のパワフルながら繊細な旨みと抜群に相性が良い。 リストランテホンダ「尾崎牛と黒キャベツのラグー パッパルデッレ」

味わい深い赤身と上質な脂が調和する尾崎牛だからこそ、付け合わせである、みずみずしさと素直な個性が持ち味の日本の野菜と合う。リストランテらしい繊細な表現とも相性が良い。

「尾崎牛は、まさに『日本ブランド』だと思います。日本に根差し、かつ、高いクオリティーを実現している」と、本多さん。

日本を代表するリストランテのシェフが、信頼と誇りを持って扱う食材。尾崎牛は、そのポテンシャルを確実に備えている。

Photo Masahiro Goda Text Izumi Shibata
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

本多 哲也

リストランテ ホンダ 本多 哲也

Tetsuya Honda
1968年神奈川県生まれ。東京調理師専門学校卒業後、「リストランテ トゥーリオ」などで経験を積み、97年に渡仏・渡伊。イタリアの三つ星レストラン「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ本店」などで修業後、99年に帰国。「リストランテ アルポルト」にて副料理長を務めた後、2004年に「リストランテホンダ」をオープン。『ミシュランガイド東京』で一つ星の評価を得た。 
このシェフについて