「ここでしか味わえない料理を供する」ことに徹する料理人。「神楽坂 石かわ」の石川秀樹氏が今回、鳥取の食材を使って、石かわならではの料理に仕立てた。その3品を紹介する。
石かわ、鳥取食材に挑戦
鳥取自慢の食材を石かわへ直送。旬の食材から自由にチョイスし、料理してもらう。それが今回の趣向だ。
「ほぼ全部、使いましたね。今回は使わなかったブロッコリーなども含めて、どれもおいしかったので。例えば鳥取和牛。試しに『うで』とあった部位を塩して焼いてみたら、これがめちゃくちゃ旨い! 僕、さっぱり系が好きで、いい牛だなぁと思いましたね。今日は撮影を考慮して、色のきれいなサーロインを使いましたが。また『鳥取地どりピヨ』って言うんですか、適度な歯ごたえがあるのに柔らかくて、ジューシーで、味がしっかりしていました。鶏は、普段店では使わないけれど、鶏好きの僕には大満足の食材です。あと、粒が大きくて身に弾力のあるシジミも、粘液の“ヌル”をたっぷり蓄えた白ねぎも、肉厚の椎しい茸たけも、本当にいいものばかりでした」
石川氏にとって鳥取の食材との出合いは「初めて」に近いものがあるとか。これまで使ったことがあるのは、「松葉がに」(ズワイガニ)くらいのものだそうだ。それだけに新鮮な驚きがあっただろうし、腕が鳴ったのではないだろうか。
鳥取和牛×東郷湖のシジミ
さて、一皿目は「シジミしゃぶしゃぶ」。食す方としてもシジミのスープでいただくしゃぶしゃぶは初めての体験。肉のきれいなピンク色がサーッと変わっていくのも待ちきれないくらいワクワクした。
このスープがまた美味! 「ずーっと飲み続けていたい」やさしい味わいにうっとりするほどだ。肉の旨さはもちろんのこと、弾力性のある寒シジミの身と、薬味の「揚げてたたいた」ふきのとうが、口の中で春を告げているような、「初めての味」だった。
鳥取地どりピヨ×大山の白ねぎ
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「皮をパリパリに焼いた鶏をガン! きれいな白ねぎをバーッ!」と配した一皿。「ねぎをパカッと割って、中だけ食べる」ところが面白い。ジューシーな地鶏と、ほどよく甘い“ヌル”の旨みを堪能できる。
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ねぎは真っ黒になるまで炭火でゆっくり焼くと、すごくおいしくなる」と話した石川氏。地鶏の料理には、中身だけを出して使った。もちろん、このまま塩をつけて外側ごと中と一緒に食べても旨い。
二皿目は「鶏のねぎソース」。皮をパリパリに焼いた鶏肉が真ん中でドン!と存在感を放ち、真っ黒に丸焼きして中身だけを取り出した真っ白なねぎが周りを飾る。あんが入っているとはいえ、これほどトロトロになったねぎは、なかなか味わえない。かむごとに地鶏らしい適度な歯ごたえ、深いコクとじわっとくる旨みが奏でる食感と味わいのハーモニーが素晴らしい。
原木椎茸×日光生姜
そして三皿目は「きのこの山」。石突きをつけたまま醤油を塗って炭火焼きにした、椎茸を山の形に盛り、間は生しょうが姜、みょうが、白ねぎの千切りで彩られている。肉厚な椎茸の柔らかいけれどかみごたえのある食感と香ばしい香り、薬味のさわやかさ、醤油酢のタレのさっぱりした味わいが一つに溶け合い、ワイルドな見た目とともに“きのこの妙味”を楽しむことができる。
恐るべし、鳥取の食材!
いずれも「石川氏にしかつくれない」逸品たちだ。今回の試みを通して石川氏は、今後の挑戦課題を得た様子。「これからは鳥取の食材を気にしていきたい。特に、“いい脂”とされているオレイン酸の含有率が55%以上あるという『鳥取和牛オレイン55』は、店で使ってみたい」ともらしていた。
一流の料理人を、ここまでうならせるとは、「恐るべし、鳥取の食材!」である。
Photo Masahiro Goda Text Junko Chiba