虎白の料理哲学は「日本料理の伝統的スタイルに立ちながらもとらわれず、食材そのものの持つおいしさと、それを引き出す調理法、合わせる食材などの組み合わせを突き詰め、今までにないおいしさを表現する」ことにある。
旬の食材そのものの持つおいしさに、それを引き出す調理法
虎白の店長にして総料理長の小泉瑚佑慈氏に、旬の食材そのものの持つおいしさに、それを引き出す調理法を組み合わせた、料理を2品作ってもらった。
つなぎを使わず、すべてが車海老「車海老のしんじょ」
「今回の車海老のしんじょも、日本料理ではわりと作るものですが、つなぎに魚のすり身や大和芋などを使っていません。おいしいけど、食材本来の味が柔らかくなってしまうから。それで、ゆでた車海老をすり身状にしたものと生の車海老を合わせて、みそと頭と殻は別にすり鉢ですって裏ごしして海老のエキスをたっぷり出し、しんじょの中に混ぜて仕上げました。言うなれば“100%車海老しんじょ”ですね」(小泉氏)
すべてが車海老だからこそ、雑味のない、ピュアで濃厚な味わいを表現。同時に、見た目に驚きのある、鮮やかな赤色が実現できたのだ。
初夏の爽やかさが広がる鮑の蒸し煮
千葉県産の鮑に、軽く酒を振り、少々の水と昆布、大根を入れた鍋で2時間半蒸し煮にしたのが、この鮑の蒸し煮だ。蒸し煮にすることで、鮑のふっくらとした柔らかなおいしさを引き出す。そこに、すだちを絞ったキュウリの千切りを添えて。食べた瞬間に、口の中に初夏の爽やかさが広がる一品だ。
「これはキュウリの千切りに合わせましたが、年によって、鮑を煮た出汁をゼリーで寄せたものとか、裏ごしした肝のソースをかけるなど、いろいろやります。定番は『虎白』にはほとんどなくて、あるとしたら鮎の素揚げと松葉蟹のしんじょくらいかな」と小泉氏。
旬の素材を最大限に生かした調理法で、季節を味わうというのは、日本料理の基本だと話す小泉氏。
「素材は和の他にも中国料理やフレンチの主役になるものなど、ジャンルを超えていろいろ使いますが、それも奇をてらうのではなく、あくまでも素材を生かすため。新しい調理法を生み出すということは、日本料理の幅と奥行きを広げることだと思っています」(小泉氏)