虎白 小泉 瑚佑慈 虎白・小泉瑚佑慈、尾崎牛に出合う

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同じ料理がメニューに挙がることがほとんどないという虎白。それは、日本料理の「王道」を行かず、毎年違う形で旬の味わいを提供したいという小泉瑚佑慈氏の信条がそうさせるのだ。

そんな虎白では、ジビエシーズンに熊、真鴨、猪を使うが、一年を通して使うのは牛肉だけ。日本料理のコースに組み込みやすい工夫をおこたらない。普段、小泉氏はミスジ、イチボ、サーロイン、ヒレをよく使う。そして、コースのどこに牛肉料理を持ってくると、“牛”を生かしきれるのか、胃が疲れない食材の組み合わせになるかを考えながら提供しているわけだ。

「鰹出汁に野菜を入れて、ブロック肉を低温でゆっくりと火入れして、ローストビーフのようにすることもありますね。それに、しゃぶしゃぶ用の薄切り肉を出汁に通して、刻んだ塩昆布とスライスしたトリュフを載せたものなど、必ず出汁と合わせています」(小泉氏)

虎白×尾崎牛

今回、宮崎の尾崎牛で作ってもらった2品にも“出汁”を効かせた。

「尾崎牛は脂がきれいでミルキー、甘みがあります。だから春野菜のような苦みのある食材に合いますね。これは、尾崎牛の脂の旨みを“調味料的”に使ってみたんです。淡白なものにオイルをかけるとおいしくなるように、春野菜に尾崎牛の脂のコクを与えてみました」(小泉氏)

その通り。苦みのある春野菜と低温の鰹出汁にさっと通した肉を一緒に食べると、脂の甘みが春野菜の旨みをより引き出す。

尾崎牛の料理
春らんまんの一皿。尾崎牛の霜降りスライスを鰹出汁にさっと通すことで、肉の旨みが逃げず、きれいなピンク色を保てるうえ、硬くならない。たらの芽、のびる、こごみ、ふき、たけのこといった苦みのある春野菜に尾崎牛の脂がコクを加える。添えた出汁ゼリーと一緒に味わう。

もう一品は、サーロインの霜降りステーキを、炭火であぶって肉の香りを立たせた。

尾崎牛の料理
霜降りのサーロインステーキを炭火であぶり、サイコロ状に切って、あさつきやみょうがとともに出汁であえる。出汁は辛みの強い粉山椒とすだちを搾ったもの。尾崎牛の上質な脂と山椒は特によく合う。いつまでも柔らかくて、かなりサシが入ったサーロインなのに食べ続けられる。さっぱりとした逸品だ。

「本当に尾崎牛の脂は良質だから、焼き切るより、あぶる程度のレアがいいですね。そうすることで、特徴的な脂の甘みをしっかり残して、よく味わえる料理にしました。脂の強い旨みに負けない、粉山さん椒しょうとすだちを入れたすっきりとした出汁で食べる。重たいたれになると負けちゃうと思ったので、脂に合う山椒とさわやかな柑橘系を合わせようと、すぐに思いつきました」(小泉氏)

尾崎牛の持つ脂の強い甘みを、山椒の辛みやすだちの酸味が、絶妙なバランスで全体に調和させている。

「やはり、ブロック肉を使ってみたいですね。本当にきれいな脂なので、日本料理に、特に出汁に合わせやすい。今、牛肉では〝赤身〞が持つ肉本来の味わいが注目されています。ただこれだけサシが入っていても、尾崎牛なら、毎日食べても飽きないでしょうね。上質なミルクみたいな柔らかな脂の甘さなら、寝かさずにすぐに食べたほうがおいしいと思います。それに、これだけ出汁に合う尾崎牛の用途は、すごく広いと感じました。コースの流れに違和感なく溶け込める料理が作れそうです」(小泉氏)

日本料理にしっくりくる牛肉。その味わいは、やさしく上質で洗練されている。まさに、世界から評価を得ている出汁と同じである。虎白×尾崎牛。さらなる旨みの世界が広がるに違いない。

小泉 瑚佑慈

虎白 小泉 瑚佑慈

Koji Koizumi
1979年神奈川県生まれ。調理師専門学校を卒業後、日本料理「岡ざき」で石川秀樹氏に師事。2003年、石川氏が開業した「石かわ」に、創業から従事。08年、姉妹店となる「虎白」の店主となり、キャビアやトリュフなども巧みに取り入れた日本料理を探求。『ミシュランガイド東京2016』で国内最年少三つ星シェフとなって以来、6年連続三つ星の評価を得ている。
このシェフについて