山口の伝統が甘美に香る
これまで山口産であることを特に意識したことはなかったという元麻布「かんだ」の店主・神田裕行氏。
「もちろん萩のアマダイはいいと聞いていたし、福岡からとるフグも下関産かもしれないけど、明確に山口産と認識して料理するのは、今回が初めて」だそうだ。
かんだのまな板に載ったのは、岩国れんこんとアマダイと長州黒かしわ、そして長門ゆずきちの四つ。神田氏が手をかけた料理は、どれも山口の伝統が甘美に香った。
岩国れんこん
「岩国れんこんは旨みのある蓮根ですね。だから団子にしました。水っぽくなくてモチモチし過ぎないので、煮物やきんぴらにも向いていると思います。蓮根というのは、通常4~6節あって、先端の1節目はシャキシャキしていて、真ん中の節はモチモチ、最後の節が繊維質と、節によって味わいが違うので、分けて使うといいですね」(神田氏)
-
もっちりとした粘りとシャキシャキとする食感を併せ持つ岩国れんこん。この特徴を生かして団子にしたり、ゆでたりして食べる。
-
すりおろした蓮根を絞って、繊維質の塊と汁に分ける。卵黄と油を混ぜたつなぎを繊維質の塊に入れて生地にする。
-
胡麻を強火でよくいる。これを蓮根の生地に混ぜて、団子にする。団子にした蓮根は時間をかけてゆっくり蒸す。
-
シャキシャキの食感を楽しむため、皮がついたまま岩国れんこんを丸ごとゆでる。蓮根の穴を利用した飾り切り、花むきにする。
アマダイ
「アマダイには明太子を塗って、ふっくら蒸して、むっちり仕上げました。そうすると、アマダイの淡白な旨みが引き出されるんです」(神田氏)
-
アマダイはうろこをとっておろし、切り身にする。身から小骨を骨抜きでしっかり抜いておく。
-
身に明太子を厚めに塗って蒸す。蒸すことでアマダイの身は、ふっくら仕上がり、淡白な旨みを魚卵の明太子で引き出す。
長州黒かしわ、長門ゆずきち
「長州黒かしわは図体が大きくて、赤色が強い。運動量もあるし、歩留まりのいい鶏だという印象。小さく切って加熱するより、丸ごと焼くのがいい。大変おいしい地鶏だと思いました。今回は皮目だけ香ばしく焼いたモモ肉と数種類のキノコと一緒に、すき焼きにしました。山口の伝統果樹、長門ゆずきちは、チャーミングな少年のようなかわいい香りが気に入りました。カボスと柚子の中間の香りですね」(神田氏)
秋のキノコいろいろ。タモギタケ(黄色)、トキイロヒラタケ(ピンク)、アンズタケ、オオシメジ、ヤナギマツタケ(茶色の長いもの)。
長州黒かしわのモモ肉の皮目を焼く。フライパンに油を引いて、手で肉を押しつけながら、強めに焼いて、皮目に香ばしさを出す。
時々、氷の入ったボウルを上から押し付けて、肉の部分に火が入らないように焼く。皮目だけしっかり焼いた肉をスライスする。
Photo Masahiro Goda Text Junko Chiba