地の恵み

西に日本海を擁する福井県は、東に霊峰白山などの千m級の山脈がそびえ、その間に平地が広がる、海・山・里の三つを備えた食材の宝庫だ。農業では平野、砂丘地帯、丘陵地とさまざまな地形であるため、多彩な野菜が収穫できる。

3年かけて栽培するシャキシャキのらっきょ

昔からの土地柄を生かして作られているものの一つが、日本海沿いに位置する三さん里り浜はまの砂丘地で栽培される「花らっきょ3」。通常、らっきょうは夏に植え付けをして6月ごろに収穫するが、ここでは全国で唯一、植え付けから収穫まで3年もの年月をかけて栽培する「三年子」が生産されている。通常の種球1粒は1年で6~9粒に増えるが、三年子では40~60粒になり、小粒で繊維が細かく、身が締まってシャキシャキと歯切れの良いらっきょうになる。真夏の暑い時期に畑作業をするため生産者には厳しいが、だからこそ、ここにしかない名産として全国的に知られている。三里浜特産農業協同組合代表理事組合長を務め、この地で代々のらっきょう農家を営む村上茂雄さんは、「もっと農地を広げるべき」と意欲的だ。 村上茂雄さん

あらわ市の名産品

県の北端に位置するあわら市では、赤土に砂が混じった丘陵地の土壌でサツマイモの「とみつ金時」が栽培されている。「とみつ金時は日本海に面した富津の風土を記憶して、しっとりほくほくの甘いサツマイモです」と胸を張るのは、フィールド ワークスの吉村智和さん。「とみつ金時」は上品な甘さと適度な水分が特徴で、収穫後に12℃で貯蔵し、休眠させるキュアリング貯蔵法を行うことで一年中旬の味を保つ。このため近年、東京でも人気が高まりつつある注目の品種だ。

吉村智和さん

同市では砂丘地を生かして、糖度12度の最適な甘さと「シャリ感」を持つ西瓜も栽培。日本海に面しているあわらの丘陵地帯は水はけがいいため、西瓜作りに適しているのだ。ここで35年間、露地栽培にこだわり、西瓜を作り続けている竹内軍治さんは、一口目のシャリシャリとした食感がたまらない「味きらら」を丹精込めて育てている。

また福井県立大学で世界で初めて開発したミディトマトの品種「越こしのルビー」も、あらわ市の意欲的な農家によって栽培されている。トマトは温度と水の調節が難しいが、手間をかけることで、糖度が高く、リコピンも通常のトマトの約2倍も含まれる「越こしのルビー」が誕生した。「越のルビーを愛してやまない」という篠崎巌さんは、収穫したトマトを一つひとつ丁寧にパック詰めにし、生産者シールを貼って出荷している。

  • 西瓜
  • 竹内軍治さん
  • ミディトマト
  • 篠崎巌さん

老舗の油揚げと味噌

一方、福井の郷土の味として今も欠かせないものの一つが油揚げだ。浄土真宗の信仰があつい福井では、信徒たちの最大の催事である「報恩講」の昼食で必ず油揚げ料理が添えられた。これが一般家庭にも広まり、油揚げ消費全国1位になるほど。都内にも商品を出す「谷口屋」は1925(大正14)年創業の老舗で、福井県産の大豆と、霊峰・白山の地下水で作った豆腐を50分かけて、表面がぱりぱり、中がふんわりとなるように油揚げを揚げていく。「谷口屋」の3代目は谷口誠さん。奥さんの富士子さんと、息子で4代目の弘晃さんとともに店を守る。揚げたての油揚げを食しに多くの人が訪れる、丸岡町上竹田のレストランを併設する店舗は大人気だ。

  • 油揚げ
  • 谷口屋3代目他

油揚げの原料となる大豆の加工も盛んで、福井市春山にある、1831(天保2)年に米屋として創業した「米五」は曹洞宗大本山永平寺御用達の味噌店。国産の吟味した米や大豆を用い、素材のうまみを最大限に引き出した昔ながらの味噌作りを現在も続けている。11代目の多田和博さんは「味噌蔵の天然酵母が味噌をじっくり熟成させています」と話す。店頭では量り売りが基本で、近所の人は容器を持ってやって来る。

  • 味噌
  • 多田和博さん

明治時代から食される伝統の若狭牛

そして、明治時代から食されている伝統の和牛、若狭牛。きめ細かなサシを持ち、とろけるような食感と上品な後味が評判の最高級の牛肉だ。水海川(みずうみがわ)が間近に流れる池田町で140頭の若狭牛を飼育している清水修一さんは「仕上がりの脂の質を上げる努力をしている」。極上の肉に仕上がる理由は、それぞれの農家が日々研究を重ね、福井の気候や環境に合わせた飼育方法や飼料の与え方を考案してきたことによるのだ。これもまた、福井ならではの大地の味である。

清水修一さん

Photo Masahiro Goda Text Rie Nakajima