海の恵み

福井には県を南北に分けるように、若狭と越前に二つの大きな漁港がある。若狭を代表する小浜漁港は、魚種豊富なリアス式海岸で、若狭ぐじ、若狭小鯛、若狭の牡蠣といったブランド魚が豊富。一方、県北部の越前漁港は、第一に冬の越前がにが有名である。

漁港
定置網、底曳き、刺し網とさまざまな漁法がある越前漁港。船数は減っているものの、若い漁師が増えているという。

越前がには日本のカニ漁の黎明(れいめい)期である1500年代から漁が始まり、明治時代から皇室に献上される「献上がに」としても知られてきた冬の味覚の王者だ。越前海岸沿岸は暖流と水温の低い日本海固有水により魚介類のエサとなるプランクトンや小魚が豊富。しかも、冬には海水がぐっと冷えることが、カニの生息地として優れているとされている。甲羅が硬くて身が引き締まり、適度に脂がのった越前がには、まさにこの地ならではの至高の味だ。

多種の魚介が水揚げされる越前漁港

冬以外の季節にも、組合員700人を擁するここ越前漁港には多種の魚介が水揚げされる。訪れた7月上旬には、アワビ、サザエ、イシダイ、ヒラメ、レンコダイ、コショウダイ、クロダイ、アジ、カツオ、トビウオ、カワハギなどが水揚げされ、港は活気に満ちていた。

  • 漁港
    かつて越前海岸には、1㎞と離れず点々と港があった。その地域ごとに、必ず海側と山側には神社がある。
  • カサゴ
    磯魚の代表格、カサゴ。かつては大衆魚であったが、現在は高級魚として取引される。
  • メジナとイシダイ
    メジナ(下)とイシダイ(右上)。ほかにもレンコダイやコショウダイなどが水揚げされる。
  • イシナギ
    大きいものは体長2mに達するイシナギ。深さ400 ~ 500mの岩礁域に分布する。

夏の風物詩「越前うに」

そして、夏の風物詩として、越前がにと並ぶ名産の一つに「越前うに」がある。 江戸時代から「長崎のからすみ」「尾張のこのわた」と共に、日本三大珍味に数えられた越前うには、バフンウニの塩漬けのこと。ウニの中で最も味が濃いとされるバフンウニを塩蔵することで、さらにうまみを凝縮させた。もともとこの辺りのバフンウニは、良質な海藻を食べて育っているため、えぐみが少なくおいしいのが特徴。バフンウニ漁は、7月21日に解禁となり、地元の海女が素潜りで採る。およそ2週間の限定で行われ、直径3~4㎝と小ぶりのバフンウニを一つひとつ手作業で割り、崩れないように絵筆で身を取り出して塩漬けする汐(しお)うには、海の宝のような希少な高級珍味なのだ。

店主
「越前の海女さんの汐うにの味を守っていきたいです」と天たつ11代目の天野準一さん。

奈良時代には、今よりも水分が多い「泥うに」と呼ばれたウニが、若狭の国から朝廷に献上されていたという。その後、江戸時代に越前福井藩主の松平治好から「日持ちのするウニの貯蔵品を作るように」と命じられ、塩蔵法を編み出したのが現在まで続く海産物の専門店「天たつ」の三代目当主・天野五兵衛だ。五兵衛の産んだ塩蔵法で、浜の人々が汐うにを作り、年貢の代わりに納めた。軍事用の保存携帯食として、朝廷や幕府各藩への贈り物にも使われるようになり、越前うにとして全国的に知られるようになった。

こうして越前海岸一帯に広まった汐うにの作り方が、その家々に今も残っているという。天たつでも、現役の海女に作ってもらって販売するものもある。しかし、越前海岸のバフンウニの収穫量は年々減少しており、現在は福井県産だけでなく、北海道や長崎、鳥取からウニを購入し7、8月にほぼ1年分の汐うにを作っている。この状況を救うため、漁業者や大学、福井県栽培漁業センターなどの協力により、ウニの養殖にも乗り出している。越前の味は、地元の海を愛する人々の手で守られている。 うに