鮭が遡上する町 新潟・村上

新潟県の最北部に位置する村上市。越後平野の北端となるこの地は、北と東を山に、西は日本海に囲まれ、中央を流れる三面川は古から鮭が遡上する川である。

新潟県村上市
築100年を超える町屋も少なくない。村上は城下町の雰囲気を今も残す。

日本の歴史に深く関わっている鮭。平安時代中期の法令集『延喜式』にも登場し、神饌として供えられていたことを記録している。特に夏までの保存食としての側面もある塩引鮭は一般にも古くから食されており、完全に腹を開かない「止め腹」は切腹の連想を嫌ったためという説があることからも歴史の長さがうかがえる。

  • 村上城の城壁跡
    臥牛山の頂に築かれた村上城の城壁跡。
  • 若林家住宅
    武家屋敷「若林家住宅」は国の重要文化財に指定されている。

江戸時代、村上にとって鮭は財政を支える貴重な財源となっていたが、中期になると漁獲量が激減。このとき村上藩の下級武士・青砥武平治(あおとぶへいじ)が鮭の回帰性に着目し、鮭漁を制限させて川の流れや産卵しやすい環境を整備。世界初の鮭の天然繁殖法「種川の制」を生み出した。こうした歴史を持つ鮭の町・村上であっても海でとれる鮭を食べる機会が多いというが、10~12月の新鮭の時期、三面川では伝統的な居繰網漁(いぐりあみりょう)が今も続いている。

居繰網漁
「居繰網漁」は2艘の川舟で網を張り、1艘が鮭を追い込む。新鮭の時期にのみ行われる伝統的な漁法だ。

水揚げされた鮭は、川のほとりにある三面川鮭産漁業協同組合の直売所にも並び、地元の人たちが一匹のまま買っていく。頭から尻尾の先、内臓に至るまで丸ごと食され、郷土の味として根付いているのだ。

三面川鮭産漁業協同組合の直売所
三面川鮭産漁業協同組合の直売所では、腹をさいたオス鮭は1匹200円というから驚き。

そしてこの時期、200年以上の歴史を持つ魚屋「うおや」は仕込みに大忙しだ。「私が嫁いだころには武家が残っていて、鮭にはうるさかったんです」と笑う8代目の女将、上村八惠子さん。「鮭のはらこは、地ものを中心に厳選したよいものを使います。地元の醤油を2種ブレンドして、酒は合成酒の方が向くのよ」と笑顔のまま軽やかな手つきで、どんどんはらこをほぐして醤油漬けにしていく。冬の訪れとともに鮭に沸く村上。古くから食文化として伝わる鮭を余すところなく食べている町だ。

  • うおや
    創業200年の老舗魚屋「うおや」。
  • うおやの女将、上村八惠子さん
    女将自ら「うおやの味」を決めている。
  • 鮭のはらこ
    旨みが凝縮され、とろけるような舌触り。
  • 塩引鮭
    オスの鮭は寒風にさらして塩引鮭に。

Photo Satoru Seki