豊後水道の恵み-一本釣りにこだわる漁師たち-

はえ縄漁ブランド、くにさき銀たちと姫だこ 国東漁港

タチウオ漁真っ盛りの国東漁港へ。

大分県水産振興祭で出会った県漁協くにさき支店青年部の漁師たちを訪ねた。彼らは斜に構えながらも、はえ縄漁という伝統の漁法を継承する純朴な思いを語ってくれた。

県漁協くにさき支店の青年たち
「代々、漁師」の県漁協くにさき支店の青年たち。左から末広功さん、松本秀行さん、堀本浩二さん。「「他に仕事がねぇんすよ」と言うが、積極的にこういった水産イベントに出向き、銀たちの魅力を伝えている。

国東漁港では、秋になると未明2時頃、多い時は約100艘が一斉に東方20~30km沖へと漕ぎ出す。タチウオ漁は、夜中のこの“場所取り競争”で幕を開ける。やがて船が一定間隔で並び、5時には引き始める。

「どこに並ぶかで、成果がかなり違う。いい漁場につけられるかどうかは早いもん勝ち。でも、バラバラにやると、仕掛けが絡まって仕事にならんので、ケンカはせん。どこを狙うかはカン……でもねぇけどな。昨日どこで取れたって情報が回るから、何も知らんでも、酔っ払っちょっても、誰かの隣にちょこんとつけりゃええ。真剣な奴はおりません」
 
25歳でサラリーマンから漁師に転身して15年、末広功さんは軽く言う。彼の横で、三人の漁師――キャリア16年の松本竜二さん、4年選手の松本秀行さん、農業にも取り組む堀本浩二さんらも、それまでのこわもてを崩して笑いを滲ませる。謙虚なのか、シャイなのか、彼らは肩の力が抜けている。

はえ縄漁というのは、『万葉集』や『古事記』にも記載のある古来の漁法。幹縄に、先に釣り針の付いた2000本もの枝縄を等間隔に垂らし、タチウオを狙う。網を使う漁に比べて時間が掛かるし、漁師の作業量も多く、室町時代からこっち、衰退しているのが現状だ。狙った魚だけを取るという部分で、環境に優しい漁法とも言えるが、針を付ける作業一つ取っても大変。伝統を守る気概がなければできないように思う。それでも末広さんは、「漁から帰った午後とか、しけの日に手入れする。中には一日中しよる人もいるけど、俺は嫌いやからじいさんにやってもらう。あとは、こたつに座ってテレビ見ながら、ばあさんがやったりな。何も大層なことはしとらん」と素っ気ない。苦労を語るのが照れくさいようだ。

不思議なことに、一人ひとりに話を向けると、彼らは口々に「がんばったら、それだけの見返りがある。やりがいを感じている」と訥々と語り始める。皆、数年の会社員生活を経て「やはり漁師を継ごう」と決意した人たち。その気持ちの裏には、幼い頃から父や祖父とともに漁に出ていた時の忘れ得ぬ興奮があったのではないか。「魚の臭いが苦手。特にいろんな魚臭が混じるとダメ。船酔いもするし」などと面白過ぎるコメントを発する秀行さんも、「取れなくても、取れた時のことを考えると、仕事をする喜びが込み上げてくる」と言う。後継者不足に頭を抱えるところが多い中、ここでは若い漁師たちが育っている。

大分県はタチウオの水揚げ高が全国二位である。国東漁港では「ここ5~6年は減ってきた」と言うが、他の漁場が底引き網で漁獲量を減らす中、はえ縄にこだわって国内有数の水揚げ高を維持している。刺身はもちろん、塩焼きや南蛮漬けにしても実に上品な味わいの、うまい魚だ。

加えて、くにさき姫だこ。足が短くて太く、身が締まっていてジューシー。漁の最盛期には、浜辺に干しだこのカーテンが広がる。

くにさき銀たちも姫だこも、ここにしかない味なのである。

タコ漁の道具
夏はタコ漁。1個約5kgの蛸壺を120個以上付けたロープを、漁師一人につき10 ~ 20本、海底に沈め る。最盛期、海は蛸壺だらけだ。

Photo Masahiro Goda Text Junko Chiba
※『Nile’s NILE』2011年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

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