牛に沸く島・石垣島

新空港が完成し、観光客が急増した石垣島で今、島育ちの石垣牛が注目を集めている。豊富な水と牧草、そして太陽の下で育った日本最南端の黒毛和牛は、石垣の暖かな大地の味がする。

石垣島は黒毛和種の大繁殖地帯

石垣島を車で走ると、青空の下でのびのびと過ごす牛たちに出合う。沖縄というと豚のイメージがあるが、実は八重山諸島は約3万5000頭の牛を飼育する黒毛和種の大繁殖地帯だ。中でも石垣島は沖縄県内でも最も多い、2万5000頭以上を飼育していると聞く。石垣島は起伏の多い土地に蓄えられた豊かな水と温暖な気候で、和牛の繁殖に適している。そして何より、石垣島にはさんさんと降り注ぐ太陽の下、風に揺れるほどよく伸びた豊富な牧草がある。ふつう年に1、2度しか収穫できない牧草が、石垣島では年に4、5回は取れるという。

放牧場

健康な石垣島の子牛

「小さい頃にたくさん牧草を食べた子牛は、成長しても食いつきがいいからよく育つ」と、島の農家が誇らしげに教えてくれた。本州などでは乾燥した輸入牧草を食べさせるところを、石垣島では島産の青草をどんどん食べさせる。だからこそ、石垣島の子牛は健康だ。毎月13、14日ごろに島内の八重山家畜市場で行われるセリでは九州や関西、関東から50名近い業者が訪れ、850頭に及ぶ子牛が取引される。子牛には農家が全て名前を付けていて、系統のいい親から生まれた子には高値が付く。セリ場には電光掲示板があり、秩序よく取引されている。

これまで石垣島では牛の繁殖は手掛けていても、肉用に肥育する農家は少なかった。それには広い敷地や施設が必要になるし、子牛で売ったほうが金回りも早いため、島の農家には助けになるからだ。

  • 子牛
    農家で飼われていた、まだ生まれて間もない子牛。石垣産の母牛から生まれ、石垣産の牧草をたくさん食べて育つ。
  • 八重山家畜市場
    肉用の子牛のセリが行われる八重山家畜市場。生後7~10カ月くらいの牛が子牛として取引され、日本各地に出荷される。

石垣牛の徹底した肥育管理

ひと昔前まで、石垣島では島を挙げてパイン産業に携わっていた。ところがパイン自由化によって一気に廃れ、代わりに伸びてきたのが和牛なのだと農家は言う。そして、2000年の沖縄サミットで石垣牛がメーンディッシュとして供されたことがきっかけで、国内外から注目されるようになり、肥育を手掛ける農家も徐々に増え始めた。

石垣牛とはJAが立ち上げたブランド牛で、八重山郡島内で生まれ、肥育管理された牛で、平成20年特許庁より、地域団体商標登録第5127806号を取得している。決められた飼料を、決められた分量だけ食べて育ったことが条件となる。飼料まで統一しているのは、全国でも珍しいという。出荷期間は、去勢24〜35カ月、メスは24〜40カ月。こうした決まりを細かく定め、安心・安全性を高めることで、BSE発生後の和牛業界で評価を上げてきた。

農家
石垣島で和牛を扱う農家。暑さを防ぐためにアコウとガジュマルの樹で木陰を作り、牛を放していた。石垣島の黒毛和牛の多くは、子牛のうちに出荷されて、日本各地で成長するため「全国のブランド牛の原点」とも称される。

太陽と大地の味

「石垣島の自然の中で育った牛は、肉質が良く、かんだ時にしっかりと肉の味がする。太陽と大地の味です」

島内で石垣牛のステーキハウスを営む店で石垣牛の魅力を聞くと、そんな答えが返ってきた。ここ数年で、石垣島には石垣牛のステーキ店や焼き肉店がぐんと増えた。島外の認知も高まり、新空港が出来て観光客が急増したまさに今、石垣島は牛に沸いている。その人気は供給が追いつかないほどだというから、今後、いっそう生産が盛んになるだろう。石垣島を訪れたなら、ぜひ旬の健やかな和牛の味をお試しあれ。

Photo Satoru Seki Text Rie Nakajima
精肉店