茶の都しずおか

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平安時代、最澄や空海によって唐からもたらされたといわれる茶。静岡県には、鎌倉時代に駿河国栃沢(現・静岡市郊外)に生まれた僧、聖一国師(しょういちこくし)が宋から種子を持ち帰り、現・静岡市の足久保に植えたのが始まりとされている。後に「するがじやはなたち花もちゃのにほひ」と芭蕉によまれた静岡は、明治維新後には大規模な茶園開拓が行われて日本一の大茶産地として発展。現在まで生産量・質ともに日本茶業の王者としてその地位を誇っている。

全国の約4割を占める日本一の茶生産地・静岡県

 茶といえば静岡、静岡といえば茶。静岡県は、それだけ茶樹の生育に適した光と温度、降水量を備え、全国の茶の生産量の4割、流通量の6割を占めている。現在、全国の8割の茶園で栽培されている品種「やぶきた」を生み出したのも現・静岡市駿河区中吉田出身の杉山彦三郎であり、静岡県無形文化財に指定される茶の手揉(てもみ)技術をもって、量・質ともに日本一の茶を生み出してきた。そのほとんどが煎茶だが、県内でも中山間では浅蒸し茶、平地の里では深蒸し茶が作られているのが特徴だ。

自然の甘みを最大限に生かした浅蒸し茶

お茶農家
春野の精 栗崎園 栗崎貴史氏。約120年の歴史を持つ茶農家の4代目。全国茶品評会で農林水産大臣賞を受賞したほか、 世界緑茶コンテスト最高金賞などを受賞。「旨み重視の1煎目、渋みと旨みのバランスがいい2煎目など、春野の上質なお茶は5煎目までおいしいのが魅力です」

 長崎県で2017年9月に開催された「第71回全国茶品評会出品茶審査会」において、「普通煎茶10㎏」の部で農林水産大臣賞に輝いたのが浜松市の春野茶振興協議会の栗崎貴史さんだ。栽培するのは、朝方には霧に包まれる山のお茶、浅蒸し茶である。

「春の新緑、夏の清流、秋の紅葉と四季折々の景観が楽しめる春野町は、お茶作りに適した気象条件が整っています。当園ではリアルタイムに温度、湿度、地温を測定することで、農薬使用を最低限に抑えた、安心安全で最高の香味を備えたお茶作りを目指しています」と栗崎さん。専門業者による土壌検査や茶葉の健康診断も行い、データに基づく肥料調整などを適宜取り入れることで、自然の恵みを最大限に生かしている。「品評会に出すお茶は、特別に手をかけた金持ちの道楽のようなお茶、とよく言われますが、私が出品している茶は、あくまで通常栽培の延長。いつものお茶が評価されています」と誇らしそうに語ってくれた。

世界農業遺産に認定された「茶草場農法」

お茶農家
山東茶業組合 平井寿博氏。「山東のお茶は濃いめの味。お茶屋さんでブレ ンドされる時にも、味を担うお茶として使っていただいています。組合員皆が目標を一つにして励み、喜びを共有することも品評会出品の理由となっています」と話す平井さん。親から受け継いだ茶畑を30年守っている。

同じく「第71回全国茶品評会」の「深蒸し煎茶」の部で農林水産大臣賞を受賞したのが、掛川市の農事組合法人山東(やまとう)茶業組合だ。同組合は、2017年度の3大品評会(全国茶品評会、関東ブロック茶の共進会、県茶品評会)すべてで農林水産大臣賞を受賞するという快挙を達成。掛川といえば、粟ヶ岳の山の斜面に描かれた大きな「茶」文字も有名だ。

「掛川の特徴は、茶畑の周りにススキやササなどの広大な採草地があることです。これらの草を畑に敷き詰めることで、10年以上かけて天然の肥料となり、良質な土を作ります」と、山東茶業組合の代表理事、平井寿博さん。茶農家によって維持管理されてきた、絶滅危惧種の植物や昆虫が息づく自然豊かな採草地の存在が、全国一の茶の味を支えている。2013年には「静岡の茶草場農法」が世界農業遺産にも認定された。

「掛川で深蒸しが始まったのは、1960(昭和35)年頃から。葉肉が厚いので、蒸しを長く入れたほうが茶の良さが引き立ちます。賞を取れる茶を作るには、まず良質な元葉を作ることが一番。さらに、同じ年でも場所によって異なる葉に合わせて、茶を製造する技を伝えていくことが重要です。まず、茶葉を手で触った時にどう感じるか。さらに、目や鼻など五感すべてで茶を理解できれば、一人前の茶師といえますね」

静岡に伝えられる環境と技、そして誇りが、日本人の心といえる一杯の茶を生み出している。

  • 富士の茶園
    富士山西南裾野地帯・愛鷹山(あしたかやま)の南麓に駿河湾を望む茶園が広がっている。富士山麓の澄んだ空気と清らかな水で育ったお茶は「富士のやぶ北茶」として全国的に知られている。
  • 川根の茶園
    南アルプスを源とする大井川の上流域に広がる山間斜面の茶園。恵まれた気象条件と農家の努力により、宇治茶・狭山茶とともに三大銘茶の一つに数えられる川根茶の産地として発展。
  • 森の茶園
    傾斜地茶園の景観が特徴的で、健康長寿の里としても知られている森町。和菓子とともに山のお茶を楽しみながら、のどかな田舎の暮らしや町に伝わる伝統文化が感じられるのも魅力。
  • 本山の茶園
    安倍川流域を中心とする産地の中でも、上流地帯の良質な茶産地、本山(ほんやま)。南アルプスの伏流水と山霧が爽やかな香りと滋味をもたらし、本山茶は江戸時代に徳川家康御用達に選出。

2018年、「茶の都しずおか」にオープンした「ふじのくに茶の都ミュージアム」。日本茶はもちろん世界のお茶にまつわる歴史や文化、産業を紹介する本格的なお茶のミュージアムだ。お茶の機能性と成分を理解できる体験型展示のほか、茶室での茶道体験や抹茶挽き体験なども用意。江戸時代の大名茶人・小堀遠州が確立したお茶のスタイル「綺麗さび」をテーマにしたカフェレストランでお茶やスイーツ、お茶づくしの料理などを堪能することもできる。

ふじのくに茶の都ミュージアム
TEL0547-46-5588
tea-museum.jp
ふじのくに茶の都ミュージアム