撫養との出合い

鳴門鯛 本家松浦酒造場

鳴門鯛 本家松浦酒造場

1804(文化元)年創業の本家松浦酒造場は、ここ鳴門の撫養(むや)街道沿いで1600年ごろから米問屋を営み、豊富な米を生かすべく酒づくりを始めた。さらに先祖をたどると、そのルーツは佐賀の水軍、松浦党(まつらとう)にあるそうだ。佐賀から海を渡って四国の玄関口であった撫養(岡崎)港にたどり着き、根を下ろした。〝海賊の末裔〞であると明かしてくれたのは、10代目蔵元の松浦素子さん。

酒
右から、ナルトタイ 純米原酒 水ト米(ミズトコメ)、鳴門鯛 大吟醸、ナルトタイ オントゥ・ザ・テーブル純米大吟醸、鳴門鯛 吟醸しぼりたて生原酒(生缶)。

家業とは違う畑で長年働いていたが、8年前に蔵を継いだ。「蔵元として、先祖が築き上げてきた、日本酒の文化に誇りを持って、ウチの日本酒をもっと全国に広めていきたいです。そして『〝鳴門鯛(なるとたい)〞はおいしい。この鳴門鯛が生まれた鳴門に行ってみたい』と思っていただける日本酒をつくり続けたい」と言う。 蔵元

地元で愛され続ける老舗の味

酒づくりで重責を担う杜氏(とうじ)を務めるのは、蔵元の弟、松浦正治さん。11年前から杜氏として「米の味がしっかりしながら、バランスのよい酒づくり」を追求している。

本家松浦酒造場の代表銘柄「鳴門鯛」は、ぴちっと跳ねる鯛のラベルで知られる、地元で愛され続けている酒だ。徳島屈指の老舗蔵だけあって、その名付け親は当時の県令(県知事)。

「鳴門海峡の激流をのぼった鯛は、格別だとされる。この鳴門の鯛と同じように、酒の王になるように」という県令の思いが込められている。

日本酒には、はやりがある。だが、昔のイメージで「鳴門鯛は甘い」と地元の人からは、そういわれるそうだ。果実を思わせる華やかな香り、米をしっかり感じる、旨い酒である。

  • 暖簾
    200年以上、地元で愛され続けている鳴門鯛。現代のはやりの味を反映しつつ、地元の人の舌にしみついた蔵の伝統的な味が受け継がれている。
  • 看板
    フランスのソムリエだけが審査する蔵マスター2019では「ナルトタイ 純米原酒水ト米」が720の出品酒の中からトップ14を通過。プレジデント賞も視野に!

常盤味噌 井上味噌醤油

味噌
今も量り売りを貫く井上味噌醤油。お客は容器を 持って買いに来る。この黒っぽい「御膳ねさし」は、 鳴門の塩を使った徳島の伝統味噌「御膳味噌」を 5年以上長期熟成させた、米糀味噌ならではの深いコクが特徴的。長期熟成させているため、現在欠品中で2年後の樽出しを予定している。

かつての撫養港のほど近く、この地で140年以上、昔ながらの味噌づくりをしている、井上味噌醤油。創業以来、7代にわたって、伝統の味を守り続けている。手づくりした米糀(こめこうじ)、鳴門の塩、国産の上質な原料を用い、長年使い続けてきた道具で仕込む。いまだに量り売りをしている店には、近隣の常連客はもちろん、県外からもこの店の味噌を求めて訪れる。7代目の井上雅史さんは、〝道具〞が味噌づくりの要だと考えている。

「味噌を醸造する『木樽(きだる)』はもちろんのこと、大豆を炊く『鉄の和釜』、米糀をつくる作業に欠かせない『もろぶた』、味噌を詰める時の『木べら』と、代々伝わる道具を大切に使っています。味噌づくりで使う道具の扱い方や修理法といった、知恵や道具との向き合い方も受け継いだと思っています」と話す井上さん。
店主

代々伝わる〝道具〞が味噌づくり の要

「長年使い続けている木樽や蔵には、味噌を発酵させる微生物、〝酵母〞がすみつき、ウチならではの個性的な味わいの味噌ができます。実は、醤油などは〝蔵〞に宿る菌類の影響を受けますが、味噌は〝樽〞にすみつく菌類の環境が重要になるんです。その証拠に、この100年以上使い込んでいる木樽と2015年に作ったばかりの樽で、同じ材料を同時期に仕込んで熟成させても、まったく違う味になります」

井上さんの味噌は4種。地元で愛される最も評判の「常盤(ときわ)味噌」、鳴門の塩で仕込んだ徳島の郷土味噌の「御膳味噌」、御膳味噌を木樽で5年以上熟成させた「御膳ねさし」、手づくりの米糀の天然の甘みと旨みが特徴の「白味噌」だ。味噌づくりに欠かせない道具との向き合い方までを継承する7代目の味噌は旨いばかりだ。

  • もろぶた
    糀菌を生育する部屋、榁(むろ)に積み重ねられた「もろぶた」は、手づくりの糀をつくるのに欠かせない道具である。
  • 看板
    創業140年以上という歴史を物語る井上味噌醤油の看板。味噌づくりの原材料には100%国産の米、大豆、塩を用いる。