東の灘と謳われた酒の町・大山
こだわりの酵母で仕込む出羽ノ雪
大山を代表する銘酒の一つが、渡會本店が手掛ける出羽ノ雪だ。大山唯一の酒造資料館を併設した蔵は、町でもひときわ存在感を放っている。庄内藩主酒井氏が鶴岡に入封する前の元和年間に酒造りを始めて以来、380年余年にわたり、大山で酒造業を営んできた老舗である。
蔵では酒母造りが始まっていた。酒母は酛(もと)ともいい、麹、水、蒸し米を混ぜたものに酵母を加えて培養したものをいう。文字通り酒の母となるもので、酒母の出来が、その後の酒造りの骨組みを決めると言っても過言ではない。
杜氏は17代目当主の長男で、専務を兼任する渡會俊仁氏だ。氏の案内で酒母室をのぞかせてもらうと、酒母がプクプクと小さな泡を立てていた。「どうぞ、香りを確かめてみてください」と言われ、両手で空気を救うようにしてみると、リンゴのような甘くフルーティーな香りがする。酒母は二つのタンクで造られていて、香りも、よく見ると泡の立ち方も微妙に異なっていた。「酵母が違うんですよ」と、渡會氏は言う。
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酒母の様子を確認する渡會氏。技術が進んでも、杜氏の目と感覚は欠かせない。
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酵母のもととなるスラント。渡會本店では、目指す酒の味わいによって、数種類を使い分けている。
現在、酵母は県などの酒造組合が管理していることがほとんどだ。酒蔵は酒造りの季節が来ると、組合で培養された酵母を買っている。しかし、渡會本店では酵母のもととなるスラントだけを買い、酵母は自家培養している。もちろん、培養には適切な管理が必要だ。白衣を着て、酵母が入ったフラスコを見つめる渡會氏が化学者に見えた。「酵母は、酒を決めるものですから」と渡會氏。酒造りに関する、最先端の知識と豊富な経験がなくてはできないことだ。
もう一つ、酒の味を決めるものに米がある。渡會氏に米の貯蔵室を見せてもらった。渡會本店では、酒造りに最も適しているといわれる山田錦のほか、庄内産の美山錦、出羽燦々、出羽の里など11種の米を使い分けている。酒造りには溶けにくい、硬い米が適しているが、庄内で生まれた酒造適性米が「亀ノ尾」。コシヒカリやササニシキを生んだ東日本の米の父であり、より上質な酒造りに向く酒造好適米の「五百万石」も子孫の一種だ。渡會本店でも、亀ノ尾と五百万石を使用している。
渡會本店のこだわり抜いた酒は、全国新酒鑑評会で2001年以降7度も金賞を受賞した。出羽ノ雪大吟醸は、その芳醇で繊細な香りから「ワイングラスで美味しい日本酒アワード2012」最高金賞も受賞している。最新技術を駆使して造る吟醸や大吟醸のほか、伝統の製法である、きもと造りの純米酒も手掛け、愛好家の間にも多くの支持者を持つ。
「山形県民は、郷土を愛し、地酒への愛着も強いのが特徴です。大山はそういった地元の方々に支えられて、酒造りを続けてきました。各地で技術の向上が追求された結果、今、日本酒界は花開いているといえます。その中で、私たちのキーワードは、温故知新と不易流行。大山の先代たちと同じ情熱を持って、全国の方に感動していただける酒造りを続けていきたいと思っています」
大山の酒蔵の冬は、今も熱い。
渡會本店
TEL0235-33-3262
http://www.dewanoyuki.com/