「香りによる日本茶の開拓」おちゃらか

煎茶、ほうじ茶、和紅茶にさまざまなフレーバーをつけたオリジナル商品で知られる「おちゃらか」。店主のステファン・ダントン氏はフランス人で、日本茶の魅力を外国人に伝えるべく、間口を広げるために「フレーバー日本茶」を開拓した。日本人に対しても、日本茶の新しい側面を発見するきっかけを提供している。

「おちゃらか」の店主、ステファン・ダントン氏
「おちゃらか」の店主、ステファン・ダントン氏

日本茶をもっと自由に、楽しく

紅茶に花やフルーツ、スパイスなどのフレーバーをつけることはごく一般的かつ伝統的に行われてきた手法。一方、日本茶では、昔からそれは「ご法度」という印象が強かった。しかしフランス・リヨン生まれのステファン・ダントン氏は慣習を打破。日本茶に「多彩な香り」を取り入れた商品を次々に生み出してきた。

ダントン氏は2005年に吉祥寺に日本茶専門店「おちゃらか」をオープンし、「フレーバー日本茶」を提案。多くの人の興味と支持を集めた。その後、日本橋のコレド室町への移転を経て、20年に下町の趣と活気を備えた街、人形町へ。今ではフレーバーの数は煎茶ベースが27種、ほうじ茶ベースが16種、和紅茶ベースが7種、そしてこれらに季節のフレーバーを加えると全部で60種強へと広がっている。それらの内容は、夏みかん、黄桃、パイナップルといったフルーツ系のほか、焼き芋、黒糖、キャラメルなどのスイーツ系、変わったところでは日本酒やウイスキーといったものまで実に幅広い。

おちゃらかのレモンフレーバーの煎茶
レモンフレーバーの煎茶では、ベースの煎茶にレモングラス、乾燥レモンピールをミックス。煎茶の風味と、レモン特有の爽やかさはもちろん、華やかでどこか品のよい香りが混ざり合う。

ソムリエとしてフランスやイギリスで経験を重ねてきたダントン氏は、来日した際に日本茶に強く引かれたという。と同時に、その魅力を外国人であるダントン氏に、分かりやすく伝えてくれる人がいないことにも気付いた。日本茶の魅力は、日本の外に十分に伝えられていない。加えて、日本人も日本茶をどんどん飲まなくなっている。そんな現状をなんとかしたい。

「ソムリエだった私で多くの人が日本茶に親しむようになるはず、と直感したのです」とダントン氏は話す。「日本茶の世界は、私から見るとルールにとらわれすぎ。もっと自由に楽しんでほしい」

あんこに合うフレーバー日本茶

今回、ダントン氏に、「あんこに合うフレーバー日本茶を選ぶとしたら?」と質問したところ、煎茶ベースではレモン、夏みかん、金柑といった柑橘系の品々を、ほうじ茶ベースではマロングラッセ、黒糖、カラメル、かぼちゃなどを薦めてくれた。

あんこに合うフレーバーとして薦めてくれたお茶
あんこに合うフレーバーとして薦めてくれたお茶。ほうじ茶ベースではコクと甘い香りが特徴の黒糖やマロングラッセなど、一方の煎茶ベースでは爽やかな柑橘系をセレクト。それぞれ異なる方向性を提案する。

「私はあんこはどちらかというと粒あんが好きで、それはコクがあるから。そのコクと合わせるなら、分かりやすいのは香ばしいほうじ茶に、同じくコクや甘みを感じる香りをつけたお茶。『あんこには煎茶』という普通のイメージと違うのも面白いでしょう?」。一方、煎茶ベースでは、爽快感のある柑橘系という意外なフレーバーを挙げた。「こちらは甘いフルーツではなく、爽やかなフルーツが合います」。あんこと柑橘のペアは一見不思議だが、あんこの甘さと風味、柑橘の香りが互いを引き立てるマリアージュを作り出している。

ダントン氏が一貫して目指してきたのは、固定観念に縛られない日本茶のあり方だ。「食中でもリラックスタイムでも、シチュエーションに合わせて香りを変えてみて。もっと遊んでみて。無難じゃつまらないでしょ?」と笑う。新しい世界を開拓するのが好きで、発想が柔軟なダントン氏の手にかかると、日本茶はこんなにも多彩で楽しさにあふれた飲み物へと変化するのだ。

ステファン・ダントン
1964年、フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブルにてホテル経営を専攻。卒業時にソムリエの資格を取得。92年、来日。紅茶専門店やブライダル業界で勤務しながら、日本茶への関心を深める。2005年、吉祥寺に日本茶専門店「おちゃらか」を開店し、フレーバー茶の製造・販売をスタート。14年、日本橋のコレド室町に移転した後、20年、人形町へ店舗を移す。
「おちゃらか」の店主、ステファン・ダントン氏

おちゃらか
東京都中央区日本橋人形町2-7-16 関根ビル1F 
TEL03-6262-1505
www.ocharaka.co.jp

Photo Masahiro Goda Text Izumi Shibata