リューズ | 飯塚隆太 漬物と納豆とフロマージュブラン。日仏の朝食は“発酵食品つながり”

「朝ごはんに関する話を」と投げかけると誰もが一瞬戸惑う。しかし、一度話し出すと日々食べている朝食から、思い出に残るもの、旅先での朝ごはんと話は尽きない。今回は、リューズの飯塚隆太氏に、朝ごはんについて、たっぷり語ってもらった。

「リューズ」飯塚隆太

思い出の朝ごはんは、新鮮な素材が並ぶ故郷の味

フレンチシェフ飯塚隆太氏は新潟県十日町生まれ。朝ごはんの思い出は、故郷につながる。白いご飯に味噌汁、それに夕飯の残り物。「田舎くさくて素朴だけれど、今思えばいい土で育った純粋で新鮮な素材の並ぶ贅沢な食卓だった」と振り返る。

「野沢菜納豆とかね。家で漬けた野沢菜を刻んで納豆とざっくり合わせる。粘りが出るまで混ぜちゃダメ。市販品のタレも使わず、醤油を少々。でないと、せっかくの納豆の味が消えてしまいます。本当は薬味に黄柚子を入れるんです。実家では黄柚子がある時に、皮を剥いて冷凍保存してました。あと、沢庵や茄子、胡瓜などの古漬けを塩出ししてきんぴらにしたお菜も好物です。漬物は浅漬けがまたいい。夕方、庭の野菜をとってきて、赤紫蘇の漬け汁に漬けておいて翌朝食べる。爽やかな朝でしょ? 味噌汁の具は豆腐と葱です。実は今回、おふくろに電話で『なめこだったっけ?』と聞いたら、『そんな贅沢なものは使わないわよ』と言われました。30年前はなめこも贅沢な素材だったんですよね」

フランスのトロワグロ時代の朝食

飯塚氏は今も「朝食はしっかりとる」派。とくに子どもができてからは、家族との時間を大切にして、できるだけ朝は一緒に食べるよう努めている。

ご飯に明太子とか、子どもたちに合わせてパンにベーコンエッグとか、普通ですよ。あと、ここ3年くらいは毎朝、ヤクルトとヨーグルトを欠かしません。深酒して食欲のない朝でも、健康のためにね。ま、深酒したら意味ないだろって話ですが」

「朝ごはん=和食」の意識が強い飯塚氏だが、フランスのトロワグロで働いていた時は選択の余地がない。「それこそクロワッサンとコーヒー」という朝食だった。

「とにかく仕事がハードで、しかも昼が粗食なもので、朝ちゃんと食べていかないと、体がもたないんです。フロマージュブランやヨーグルトで力をつけてました。向こうは乳製品のクオリティが断然高い。乳が濃いんですよ。中でも忘れられないのは、ブルターニュを旅した時にホテルのルームサービスで食べた、メゾン・ド・ブリクールという三ツ星レストランの朝食です。ここのバターは本当においしかった。もう一つの『思い出の朝ごはん』ですね」

その乳製品は、飯塚氏がフレンチ料理人を目指すきっかけともなったものだ。お母さんが体質的に牛乳を受け付けなかったため、ホワイトソースを使った料理やポタージュ、グラタンなどは食卓に並ばない。でも、叔母さんが時折ふるまってくれるその種の料理に魅せられた。それで西洋料理への憧れも手伝って、子どもの頃から自分でつくるようになったそうだ。

「ただ30を過ぎた頃から、日本料理の技術に興味を持ち始めて、包丁を揃えたり、鱧の骨切りを練習したりしています。日本人ならそういう技術を知らないのも恥ずかしいと思って」

飯塚氏の和への傾倒が今後、彼のフレンチにどんな幅を与えるのか、興味深いところである。

※『Nile’s NILE』2011年7月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

飯塚隆太

リューズ 飯塚隆太

Ryuta Iizuka
1968年新潟県生まれ。専門学校卒業後、「第一ホテル東京ベイ」「ホテル ザ マンハッタン」等を経て、94年「タイユバン・ロブション」の部門シェフに就任。97年に渡仏し、「トロワグロ」「ジャンポール・ジュネ」等で修業。帰国後、ジョエル・ロブション氏の系列店で研鑽を積み、2005年「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」のシェフに。11年「レストラン リューズ」をオープン。12年版『ミシュランガイド東京』で一つ星、13年版以降は二つ星の評価を得ている。
このシェフについて