新鮮な野菜ジュースの日常と、エッグベネディクトの非日常の朝ごはん

「朝ごはんに関する話を」と投げかけると誰もが一瞬戸惑う。しかし、一度話し出すと日々食べている朝食から、思い出に残るもの、旅先での朝ごはんと話は尽きない。今回は、「玄冶店 濱田家」の三田啓子氏に、朝ごはんについて、たっぷり語ってもらった。

玄冶店 濱田家・三田啓子氏と朝ごはん

“朝ジュース”が習慣

老舗料亭・濱田家の女将、三田啓子氏の朝は、手づくりの野菜ジュースとともに始まる。

「お取り寄せした有機栽培の人参とこだわりのリンゴをベースに、時々余ってるぶどうやトマトなども入れて、ジューサーで搾っています。横で3匹の犬たちが『ママ、早くぅ』と、リンゴの皮や果肉の搾りかすを待っているんですよ。私だけではなく、彼らトイプードル父子と体重28kgの大きなフラットコーテッドレトリバーにとっても、このジュースは免疫力アップと元気の素ですね。飲まないと、気持ち悪いくらいです」

“朝ジュース”のきっかけは「更年期を前に、体調が崩れた」こと。人づてに「野菜ジュースがいい」と聞いて始めたそうだ。ジューサーを使うのは意外と面倒なものだが、「手間をかけるだけのことはある」と言う。

「とくにリンゴは、アンチエイジング効果があるようで、お肌の調子がいいですね。疲れてロボットみたいにギシギシした体の潤滑油にもなります」と破顔する。

旅先での朝食が優雅なひととき

女将の朝は忙しい。「いつもバタバタしている」三田氏は、だからこそ旅先で味わう「優雅な朝食」を楽しみにしている。中でもエッグベネディクトは、「海外に行ったら、必ず食べる」ほど大好きなメニューだ。

「イングリッシュマフィンにハムとポーチドエッグをのせて、オランデーズソースがかかって、何だか朝ごはんを一つに盛ったパンという感じですよね。初めて食べたのはロンドンのブレイクスだったか、ラスベガスのべラージオのプールサイドだったか、記憶が曖昧ですが、とにかくおいしかった。何と言っても、バターの風味が豊かで、レモンの果汁が爽やかなオランデーズソースが決め手です。レストランによってパンの大きさがいろいろで、ハムじゃなくてベーコンや海老だったり、チーズが入っていたりと、違いを味わうのもまた楽しくて。エッグベネディクトを食べると『あぁ、海外に来た』っていう解放感が湧き上がる。日常とのギャップが大きいだけに幸せだし、本当に優雅なひとときです。このくらいで優雅だなんて言うと、笑われちゃいそうですけど」

そんな三田氏が憧れる朝ごはんは、大きな土鍋で炊くお粥。以前、旅館で食べて「体にいいな。胃に優しいな」と感動し、一度は挑戦したものの、家族があまり食べてくれず、頓挫した経緯がある。

「蕎麦粥とか雑魚入りのお粥などをゆっくり食べたい。あるいは、幼い頃に母がつくってくれたような朝ごはんもいいですね。私は九州・博多育ちで、朝はおきゅうと(海藻加工食品)やみりん干し、卵焼き、しじみ汁などの純和食でした。そういう朝ごはんをたっぷり食べて、夕飯は軽く、というのが理想ですね」

着物の袖からのぞくのは、好きなゴルフで日焼けした腕。「お酌もできない」と笑う活動的な女将の理想の朝ごはんは、慌ただしい朝から解放される日が来るまで、まだまだ“お預け”のようである。

玄冶店 濱田家 三田啓子(みた・けいこ)
福岡県福岡市出身。青山学院短期大学を卒業後、日本航空へ入社。3年間の勤務後、老舗料亭濱田家の後継者である三田芳裕氏と結婚し、若女将に。現在も女将として店を切り盛りしながら、日本の伝統文化などを伝えるべく雑誌など多方面で活躍。

※『Nile’s NILE』2011年7月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています