イタリア人のように切り替えのエスプレッソを

「エスキス」の総支配人として、日々忙しく働く若林英司さん。コーヒーは仕事の合間に頭を切り替える時やテンションを高める時、あるいは逆にアドレナリンが高い時に抑える役目で飲むことが多い。そんな時は、いずれもエスプレッソだ。

「ホッと一息、というより動き続けている合間にサッと飲んで次の仕事に移る、という感じです」

仕事中に、自分でエスプレッソを淹れて飲むことはない。よく利用するのは、エスキスのあるビルのちょうど並木通りを挟んだ向かい、三笠會館1階にあるバール「ラ ヴィオラ」だ。週に2、3回は足を運んでいるという。立ち飲みのスペースで素早く飲み終え、仕事場に戻る。滞在時間は2分もかからない。

「イタリア人がなじみのバールに寄って、エスプレッソをパッと飲んですぐに立ち去るような使い方です。長居はしません」

フランスで生活した経験もあり、フランス料理の世界に長い若林さんだが、コーヒーの飲み方はフランスではなくイタリア式だ。

「フランスもイタリアもライフスタイルの中に、カフェやバールに行く時間が組み込まれています。ただ私のイメージでは、フランス人は話をするためにカフェに行き、話したいことを主張し終えるまで居続ける(笑)。イタリアではバールでの時間は、そこまでディープに入っていかない感覚です。エスプレッソの飲み方も含め、明るくテンポよく、というイタリア式が好きですね。私にとってエスプレッソは、スイッチを切り替えるツールのようなものです」

エスキス 総支配人・若林英司氏とコーヒー
仕事中に頭を切り替えるエスプレッソは、若林さんの生活に欠かせない存在だ。「飲み物のようで、飲み物ではない。私にとってエスプレッソはそんな存在です」と話す。

エスプレッソといえば、深煎りのイタリアンロースト。その濃い苦み、また苦みの後ろにある酸味を引き立てるためにスプーン1杯の砂糖を入れて飲むのが若林さんの定番だ。そうすると、味がガチッと決まる。

「ただ仕事柄、初めての店でエスプレッソを飲む場合は砂糖なしです。『マシンは何かな? どんなクセのマシンか? コーヒーのメーカーは? 苦みと酸味のバランスは?』と、つい分析してしまう」

このように仕事モードで動き続ける合間に飲むのがエスプレッソだが、休日など、リラックスする時のコーヒーならばカフェラテを好むという。そんな場合は、スターバックスのラテをよく飲む。

「スターバックスのコーヒーは、マイルドなニュアンスで量を飲める。その場で飲んでも、持ち帰ってもおいしく飲めます。香りの要素がしっかりとしているので、フラットにならない点も気に入っています」

時間があり、何も考えなくてよい時にカフェラテやカプチーノは向いている、と若林さん。おなかもふくれるので思考する際には向かないが、頭のスイッチを切って、のんびりする時間にはうってつけだ。

オンとオフで、飲むコーヒーの種類も、飲む目的もまったく異なる若林さん。「コーヒー」とひとくくりにできない、違う飲み物として場面ごとに機能しているようだ。

「エスキス」若林英司
1964年長野県生まれ。小田原「ステラ マリス」、恵比寿「タイユバン・ロブション」のシェフソムリエを務め、「レストラン タテルヨシノ」の総支配人に。2012年に「エスキス」の支配人兼シェフ ソムリエに就任し、2019年から総支配人に。

Photo TONY TANIUCHI Text Izumi Shibata
※『Nile’s NILE』2017年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています