山田チカラ | 山田 チカラ 茶室にたちこめるコーヒーの香りがいい
創作和食を提供する山田チカラさんの店では、食事の最後に、店の一角にしつらえられた茶室で女将が点たてた抹茶を出す。客から要望があれば、抹茶の代わりにコーヒーを出すこともある。
「抹茶と同じように、女将が茶釜からお湯を注いでコーヒーを淹れます。茶室でコーヒーって、いいですよ。空間全体に、コーヒーの香りが充満するんです」
スペインにいた頃、カフェ・オ・レよりも少量のミルクで作るカフェ・コルタードをよく飲んだ。食後は、エスプレッソにリキュールのベイリーズを加えて飲むのも気に入っていた。だが、自分の店で出すのは、もっぱらドリップコーヒーだ。
「ヨーロッパで流通しているものの多くは深煎りの豆で、エスプレッソで淹れて、牛乳と混ぜて飲むと相性がいい。でも、日本の軟水では、ドリップコーヒーのほうがおいしいと思います」
店で出すのは、一つに、高校の先輩でもあるコーヒーハンターの川島良彰さんが手がけたもの。川島さんが生産地で苗から木を育てて作ったこだわりのコーヒーは、「味が全然違います。あらゆるジャンルの料理に合うし、普通のコーヒーのように、冷めてもすっぱくなりません。砂糖もミルクも使わずにそのままでおいしいので、食後に最適」と、絶賛する。
このほか、京都でプレミアム・スペシャルティコーヒーの製造・販売をする「AMANO COFFEE ROASTERS」で仕入れたコーヒーを出すこともあるという。
コーヒーとの縁は浅くない。鶏肉を炊く時に、スパイス代わりにコーヒー豆の薄皮を一緒に入れるなど、料理に使うこともある。
「『エル・ブリ』で化学的な調理を学んだ経験から、缶コーヒーの味と香りを、いかに維持するかという研究を少しだけお手伝いしたこともあります。持続する香りって油にしかつかないから、缶コーヒーはコーヒーのフレーバーをつけた油を少量混ぜて、なおかつ油が入っているとは感じないようにしてるんです。原材料名にある乳化剤がその油で、この技術が発展してから、缶コーヒーもずいぶんおいしくなりましたよね」
基本的に、酸味があまり強くないコーヒーが好み。その嗜好こうに合う、神奈川県の守山乳業が出している紙パックのオーガニックコーヒーを知ってからは、仕事中に常温で1日1リットル、水代わりにゴクゴク飲む。
「仕事中はとにかく時間がないので、そのまま飲めるこれが一番。集中して作業しながら飲んでいるので、僕の場合、コーヒーブレークではないですね。でも、半分中毒のようなもので、飲むと落ち着きます」
ヨーロッパのレストランでは、近年、コーヒーというより、抹茶や煎茶など、お茶の種類を増やすことがブームだという。
「抹茶もコーヒーも、苦みという点で共通しています。さまざまな料理を味わって、最後に苦いものを飲むことで、口の中がすっきりして、気持ちもほっと落ち着きますよね」
Photo TONY TANIUCHI Text Rie Nakajima
※『Nile’s NILE』2017年1月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています