リストランテ ホンダ | 本多 哲也 盛り上がる蟹
日本で提供するなら、最高の珍味であるズワイガニを使った料理を
イタリアンでも日本の冬を彩る食材は、越前がにを始めとするズワイガニ。ズワイガニを完結させ、より濃い味わいに仕立て上げる、リストランテ・ホンダ、本多哲也シェフのズワイガニ料理をお届けしよう。
蟹はそれだけで全てを語る
今まで生きていたセイコガニをまず、沸騰する湯の中へ。湯は海水と同じ塩分濃度に調整されている。ほどなくカニは、腹を膨らませるようにして外子をあらわにする。たっぷりの湯でゆでること約7分、鮮やかな橙だいだい色いろに染まったカニは次に、海水濃度の氷水に浸された。「海水を使う浜ゆでと同じ。真水だとうまみが外に出ちゃうんです」と本多哲也シェフ。
その後、ハサミで脚を切って身を出し、甲羅を開けて内子と外子、みそを取り出して、身をほぐす。ここから、「セイコガニを“再構築”する」作業が始まった。
「底にトマトのクーリーを敷き、カリフラワーのブラマンジェを載せて、周りに内子を置きます。そこにアボカドの薄切り、その真ん中に柿のピューレと柿酢を混ぜたドレッシングを載せて、ほぐした身をこんもりと。さらに、トマトをピューレにした時に出る白い汁のゼリー、外子を重ねて内子のパラパラをふりかけ、てっぺんに塩がわりにカスピ海のキャビア、オシェトラを飾ってフィニッシュです。セイコガニの持つ多彩な味わいと食感が丸ごと味わえますよ」
さっそくスプーンですくって口の中へ。その瞬間、「これぞセイコガニ!」の風味とともに、トマトの爽やかさやカリフラワーのビアンコマンジャーレのクリーミーなやさしさが広がる。キャビアの濃厚な味わいがカニのうまさを引き立てるようだ。
そして2品目は、越前がにの身とみそが主役のソースをからめた、イカスミを練り込んだパスタ。オーブンで焼いた脚が添えられ、越前がにが一皿で完結している。本多シェフが言うように、「越前がにを食べてます」的な喜びが湧き上がる一品だ。
「パスタはトマトを練り込んだものとか、いろいろ試しましたが、イカスミの磯の香りがカニの甘みとかコク、風味に一番合うと思いました。ソースはオイル系がいい。トマトソースだと越前がにの甘みが消えちゃうんです。でも、酸味は欲しいので、セミドライトマトとかケッパー、レモン汁で。ソースはカニの甘みをぐっと引き出すために、若干辛めにしています。ケッパーと白ワイン、アサリ汁を煮たてたところにカニとセミドライトマト、あらかじめソテーしておいたターサイを加えたものです。で、最後にオリーブオイルでのばしたみそを載せ、エシャロットのみじん切りで飾ってレモン汁を少々。脚の方の味付けは白胡椒とオリーブオイルだけ。塩は使いません」
これら2品はいずれも、店のメニューに載せているもの。ロシア産のカニをやめ、越前がにを始めとする"ブランドもの"のズワイガニを使うことにしたそうだ。
「値段は高いけれど、味のメリハリ感が全然違う」からだ。「イタリアではワタリガニをよく使います。身より出汁を味わう感じかな。一方、ズワイガニは身のおいしさですよね。日本で供する以上、冬を楽しむ最高の珍味であるズワイガニにこだわりたいですね」と本多シェフ。
個人的には「半生の焼きズワイガニが大好き」だそうだ。
Photo Masahiro Goda Text Junko Chiba