リューズ | 飯塚隆太 ズワイガニとフレンチ、和仏出合いの食感
フレンチのメーンを張れるカニ料理を
越前がにでメーンを―このリクエストを受けた瞬間から、リューズ・飯塚隆太氏は頭を抱え続けたという。「前菜ならいろいろ思い浮かぶんですが、カニは非常に繊細でガツンとくる味ではないので、メーンとなると困っちゃって」と、顔を曇らせた。が、声は弾んでいる。楽しい挑戦だったらしい。そんな飯塚氏が作った、カニ料理とは。
「実は店でも、去年ぐらいからズワイガニを大量に使ってます。きっかけは、たまたま島根の漁師さんと知り合ったこと。彼が鳥取のカニ漁船の方々と仲がいいもので、一番おいしいと目利きしてもらったとれたての松葉がにを釜ゆでしたものを、送ってもらえるようになったんです。身をほぐして、ゼリーやムースと合わせて前菜としてお出ししています。でも、メーン料理は初めて。とりあえず松葉がにの"活いけ"を送ってもらい、いつもはしない試作をして、身に火を入れた時の状態を見たり、赤い薄い膜を外すかどうかを考えたりしました」
そうして出来上がったメーンは、越前がにのソテーに、海老芋にほぐした身を載せてグラタン風に仕立てたものを付け合わせた一品。「エビ・カニ合戦」だとか。
「脚をバターで転がして、一度取り出してカニの出汁を入れて薄切りにした蕪をほどほど炊きます。そのスープに脚を戻して、ともにからめて仕上げ、黄柚子のバターソースをかけます。やっぱりカニの姿を残したいですからね。頭の方の身はみそと合わせ、オレンジ風味のサバイヨンをかけて。カニは繊細な味わいなので、強いソースよりもバターのやさしい風味が合いますよね。で、蒸し焼きにした海老芋を鉄板で軽く焼いて、カニの出汁を含ませます。最後はオーブンでグラタンに。蓮れん根こん餅みたいなのにしようかなとも思ったんですが、海老芋は旬を迎えておいしいし、ねっとりした食感が合うと思いました」
2品目はセイコガニとカリフラワーとオマールエビの"三役そろい踏み"。
「4層になっていて、一番下がセイコガニの身と内子とみそを混ぜたもの。エストラゴンとオリーブオイルを加えてます。油脂が入らないと、フランス料理にならないので。その上にカリフラワーのエスプーマを絞ります。どちらも、はんなりした風味で相性がいい。そこにブルターニュ産オマールエビでとったコンソメゼリーを、さらに外子をたっぷり載せて、脚の身を3本飾ります。カリフラワーのパラパラと菊の花びらもね」
2品をいただいて、カニは十分にフレンチのメーンを張れると実感した。飯塚自身、「それぞれの素材の持つうまさが積み重なって、そこにカニのシンプルなおいしさが加わるわけで、おいしくならないわけがない」と胸を張る。ただ、「カニは日本のやり方で食べるのが一番ですね」とも。
特にカニしゃぶは飯塚氏にとって、子どもの頃からのあこがれの料理。去年は家で活ズワイガニの“初カニしゃぶ〟を楽しみ、今後は冬の恒例行事にするそうだ。何を隠そう、飯塚氏は大の"カニしゃぶ党"なのである。
Photo Masahiro Goda Text Junko Chiba