慈華 | 田村 亮介 うっとりとする中華の味

インパクト大!おおきな蒸しハンバーグ

「慈華」の田村亮介氏が紹介してくれたのは、大きな蒸しハンバーグ。まずは直径25cm強あるそのサイズに驚かされる。そして実際に食べてみると、フワッとした食感と豊かな旨みに圧倒される。食感は柔らかいが、旨みが強い。そのギャップにインパクトを感じる一品だ。

ハンバーグというと、焼いて香ばしさをつけるのが定番だが、「今回はあえて焼くプロセスのないハンバーグとしました。蒸して仕上げます」と田村氏は話す。

「蒸した挽き肉のなめらかな食感の中で、肉の旨みを楽しむ。そんな仕上がりを狙いました」

「慈華」田村亮介氏が作ったハンバーグ
ふっくらと蒸し上がったハンバーグは、なめらかさと肉をか む食感を兼ね備える。陳皮の香りが中国料理らしさを演出。 仕上げに熱したフェンネルとねぎの香りが食欲を刺激する。

発想の出発点は香港の人気料理

このハンバーグの発想の出発点となったのは、香港でポピュラーな、豚や牛の挽き肉を皿に敷いて蒸す料理だ。小皿に敷けば点心の一品になるし、大皿に敷けば大人数で取り分ける料理になる。ジューシーで柔らかい食感が特徴の、レストランでも家庭でも人気の挽き肉料理だ。

さて、田村氏が作るハンバーグのポイントは、牛100%で旨みが特に強い肩肉を用いることが一つ。そして、生地に水をたっぷりと含ませることがもう一つだ。牛肩肉は、可能であれば手切りにするのが望ましい。挽き肉なら、粗挽きとする。

「柔らかい食感の中にも、かみ締めて『肉々しい!』という印象を作り出します」

ハンバーグを作る田村亮介氏

細かく切った牛肉は塩などの調味料、卵とともにボウルに入れ、こねるようにして混ぜる。全体に粘りが出たら水を注ぎ入れるが、水の量は牛肉250gに対し100ccなので、かなりの水分が肉に加えられると言えるだろう。そして大事なのは、水をただ入れるのではなく、細く垂らしながら混ぜ続けるようにして加えるということ。

「こうすると肉の生地と水が分離しません。肉の生地がしっかりと水を抱き込んでくれます」

なお、この工程は二人で行うのが理想だが、一人の場合は水を少し加えては手早く混ぜる作業をくり返すとよい。

この後、風味づけに陳皮(みかんの皮を乾燥させた中華素材)を加える。そしてつなぎとして用いるのは、主に長芋。長芋はざく切りにしてから包丁の腹でまな板に押し付けて潰し、そのまま包丁をすべらせて練る。こうして長芋を、おろしたものとたたいたものの中間の状態とする。

「長芋はすりおろすのではなく、今回のように若干固形が残っている方が食感のアクセントになります」

出来上がった生地は、サラダ油をぬった大皿に平らに伸ばし、蒸し器へ。肉の厚さは中まで火が入りやすいよう1~1.5cm、厚くても2cmとする。蒸し時間は、家庭の蒸し器で15分間ほど。長時間蒸さないことで、肉汁が流出しない、柔らかい仕上がりが実現する。

蒸し上がったら、フェンネル( 茴香)とねぎのみじん切りを中央にこんもりとのせ、高温に熱した油をジュッとかける。すると、両者の香りが立ち上る。このフェンネルと、生地に練り込んだ陳皮の香りが、蒸しハンバーグを一気に中国料理の印象に持っていく。仕上げに中国のたまり醤油やオイスターソース、はちみつの入ったタレをかければ完成だ。

中華の肉料理、その新たな魅力発見!

見た目は大きいが、ペロリと食べきってしまう。柔らかく、なめらかで、スルスルと食べ進められるが、肉をかむ満足感もあるので最後まで食べ飽きない。中国料理の肉料理の新たな魅力を発見できる一品だ。

「慈華」田村亮介氏が作ったハンバーグ

「茴香陳皮牛肉餅 フェンネル・陳皮香る牛肉ふんわり蒸しハンバーグ」の作り方

材料

<ハンバーグ>
牛肩肉(手切りの粗みじん切り、ミンチなら粗挽き) 250g
塩 3g
三温糖 8g
中国たまり醤油 5g
卵 1個(約50g)
水 約100cc
干し椎茸(水でもどしてみじん切り) 10g
陳皮(水でもどしてみじん切り) 10g
長芋 40g
片栗粉 10g

<ソース>
生姜の絞り汁 10g
濃口醤油 20g
中国のたまり醤油 5g
オイスターソース 5g
ごま油 2g
はちみつ 10g

<他>
フェンネル(みじん切り) 2g
ねぎ(みじん切り) 大さじ2
ねぎ油(またはサラダ油) 30cc

作り方

  • ハンバーグの材料
    肉は牛100%。今回は赤身の旨みの強い肩肉を使った。陳皮は自家製を用いたが、中華食材店などでも入手できる。
  • 陳皮をみじん切りしている様子
    陳皮の白い部分(皮の裏側)をそぎ切ってから、みじん切りにする。
  • 長芋を押しつぶしている様子
    長芋を包丁でざく切りにし、たたいてから包丁の腹で押し潰す作業を何度かくり返す。
  • 材料を混ぜ合わせている様子
    ボウルに牛肉、塩、三温糖、中国たまり醤油、卵を入れ、一定方向に練り混ぜる。粘りが出たら、水を少しずつ加えながら混ぜ続ける。椎茸、陳皮、長芋を加え、最後に片栗粉を混ぜ合わせる。
  • 大皿に生地を流している様子
    サラダ油(分量外)をぬった大皿に生地を流し、直径約25㎝、厚さ約1.5㎝の円形に整える。生地は皿の大きさに応じて調整してよい。厚くなった場合は蒸し時間をのばす。
  • 蒸し器で蒸している様子
    蒸し器で15分間蒸す。蒸し上がったら中央にフェンネルとねぎのみじん切りをのせ、高温に熱したねぎ油をかける。ソース(材料を鍋に入れ、はちみつが溶ける程度まで温める)をかける。

Photo Masahiro Goda Text Izumi Shibata

田村 亮介

慈華 田村 亮介

Ryosuke Tamura
1977年東京都生まれ。実家は祖父が創業した中国料理店。調理師学校卒業後、数店での修業を経て2000年に「麻布長江」に入る。06年に料理長に。09年同店を買い取り「麻布長江 香福筵」オーナーシェフに。19年4月、建物の老朽化に伴い店を閉め、同年12月に「慈華」を開業。
このシェフについて