香りで旨みを引き立てる

「もう一口」と食べ進めてしまう和牛100%ハンバーグ

オーソドックスな日本料理をベースにした「常(とわ)」は、常安孝明氏が大好きな素材である黒毛和牛を随所に取り入れたコースが人気の割烹だ。今回紹介してくれるハンバーグは、常安氏が日頃から使っている和牛を用いた力強い味が特徴。醤油をさっと焦がした風味が食欲をそそる。

黒毛和牛は日本が誇る素材の一つ。赤身の上品で力強い旨みと、脂の繊細で甘い風味のコンビネーションは、日本はもちろん世界の人をも虜にする。特に、名人と呼ばれる生産者が手掛ける和牛は、圧倒的な旨さで食べる者に衝撃を与える。「常」の常安氏は、そんな和牛に魅せられた料理人。「うちは『和牛と和食の店』です」と話すように、全部で11~12品あるコースの中で、4~5品は和牛、あるいは和牛のテールスープを用いた料理だという。

そんな常安氏が今回、和牛の魅力をまっすぐに伝える、そして夏にぴったりのハンバーグを作ってくれた。大根おろしとポン酢を合わせた、いわゆる「おろしポン酢ハンバーグ」がベースだが、肉の吟味、焼き方、大根おろしの仕立て方、合わせるサラダの内容に特徴があり、別格の味わいを作り出している。

「常」常安孝明氏が作るハンバーグ
和牛の旨みを引き出しながら、フライパンと炭火の併用で ふっくらかつ香ばしく焼き上げたハンバーグ。力強い、かつ 格調高い和牛ならではの風味をしっかりと味わえる。それを 引き立てるのが、クレソンやみょうが、大葉といった香りの 強い野菜。ポン酢と大根おろしでさっぱりと楽しむ。

肉の旨みを強調

用いる肉は、和牛の赤身の挽き肉100%。なお「常」の和牛の仕入れ先は、兵庫県西脇市の川岸畜産。和牛の肥育から販売までを行い、最高級の神戸ビーフ、但馬牛を扱うことで知られている生産者・精肉店だ。

生地に加えるつなぎは生パン粉、牛乳、卵。ハンバーグで牛肉の赤身のみを使った場合、焼くとパサつきがち。つなぎは心持ち多めとしている。また生地には、新玉ねぎのみじん切りを生のまま練り込む。

「爽やかな風味とシャキシャキとした歯ごたえがアクセントになります」

焼く際は、牛脂を引いたフライパンを弱火にかけ、片面を3~4分間焼いたら返し、もう片面を同じだけ焼く。この時、アルミ箔をフワリとかぶせて熱を軽くこもらせることで、ふっくらと焼き上げる。そして両面を焼いたら、アルミ箔をかぶせたまま、温かい場所で4分間やすませる。この間に余熱でほどよく中まで火が入りつつ、肉汁も落ち着く。

仕上げの加熱は、炭火。醤油を刷毛でさっとぬってあぶり、香ばしさをまとわせる。

「このプロセスで、肉の旨みが一気に強調されます」

牛肉のおいしさをストレートに楽しめる一品に

完成したハンバーグにポン酢をかけている様子

ハンバーグに合わせる大根おろしには、長芋の小角切り、みょうがと大葉のみじん切りを混ぜ合わせ、食感と風味に変化をプラス。また、クレソンの葉とちぎった焼き海苔を混ぜ合わせたシンプルな、それでいて香り高いサラダを合わせる。野菜類にも、牛肉と釣り合う強さを持たせるのがポイントだ。

「今回、改めて自分がどんなハンバーグが好きか考えてみたのですが、やはり和牛100%が好きですね」と常安氏。「牛100%と合い挽き、それぞれに魅力があります。合い挽きは、牛肉と豚肉が掛け合わさることで、互いを補いながら味が広がるイメージ。一方、牛100%はまさに一直線。つい『もう一口』と食べ進めてしまう引きの強さがあり、そこに魅力を感じます」

上質な牛肉を用い、ふっくら、かつ香ばしく焼き上げた今回のハンバーグ。爽やかで香り豊かな野菜を合わせ、ポン酢ですっきりと食べる。夏に牛肉のおいしさをストレートに楽しむのに最適な一品だ。

「夏の和牛ハンバーグ」の作り方

材料

<ハンバーグ>
和牛の挽き肉 200g
牛脂(みじん切り) 15g
塩 2g
新玉ねぎ(みじん切り) 60g
牛乳 50g
生パン粉 25g
全卵(溶きほぐす) 30g
ナツメグ、黒こしょう 各適量

<ポン酢>
たまり醤油 30cc
だし 25cc
ぽんず果汁 50cc
みりん 40cc

<薬味>
大根(すりおろす)、長芋(小さな角切り)、大葉、みょうが、あさつき(以上みじん切り)、木の芽 各適量

<他>
クレソン、海苔、ニンニクのチップ 各適量

作り方

  • ハンバーグの材料
    牛肉は、最高級の神戸ビーフを取り扱うことで知られる、川岸畜産の牛挽き肉を用いる。玉ねぎは新玉ねぎ。
  • 材料を混ぜる様子
    氷を当てたボウルに和牛の挽き肉、牛脂、塩を入れて練り混ぜる。粘りが出たら、合わせておいた生パン粉、全卵、牛乳を加える。よく混ぜ、新玉ねぎを加えて混ぜる。
  • ハンバーグの成形する様子
    生地にナツメグ、黒こしょうを加え混ぜて成形し、パンチングして空気を抜く。
  • ハンバーグを焼く様子
    フライパンを温めて牛脂(分量外)を引く。フライパンの温度を少し下げてから生地をおく。アルミ箔をかぶせて弱火で3 〜4分間焼き、ひっくり返して再度アルミ箔をかぶせて3~4分間焼く。
  • ハンバーグを炭火であぶる様子
    フライパンからおろし、温かい場所に4分間おいて落ち着かせたのち、刷毛で醤油をぬりながら炭火で表面をあぶる。
  • 薬味を作る様子
    水気をきった大根おろしに薬味を混ぜ、丸める。皿にクレソンとちぎった焼き海苔を敷く。最後に大葉、みょうが、あさつきを散らし、木の芽、ニンニクのチップを添える。ポン酢とともに。

常安孝明(つねやす・たかあき)
1983年岡山県生まれ。「菊乃井」より日本料理のキャリアをスタート。フランスの日本料理店「花輪」を経て、「かんだ」で約7年間、研鑽を積む。2018年4月、東京・西麻布に「常(とわ)」をオープン。『ミシュランガイド東京2020』で一つ星の評価を得た。こだわりの和牛を積極的に取り入れた割烹料理は『ゴ・エ・ミヨ 2020』でも高評価されている。
常安孝明


東京都港区西麻布4-11-25 モダンフォルム西麻布ビルパートIII 2F
TEL03-6433-5680


Photo Masahiro Goda Text Izumi Shibata