虎白 | 小泉 瑚佑慈 美なる哉三色の諧調

小泉瑚佑慈氏の料理を見るなり、「トリュフなんか使ったらズルイだろう」と石川秀樹氏。荒っぽい言葉とは裏腹に、満面の笑み。周囲にも伝染し、笑い声の輪が広がった。それが、「おいしいものを食べると、不思議と笑いたくなる」ことにも似た、自然なリアクションのように感じられた。

「虎白」の小泉氏
小泉氏は創業から石かわを支えてきた。師匠と同じく、食材は産地指定ではなく、その日最良のものを厳選して取り寄せている。石川氏とは岡ざき時代から数えると20年もの付き合いになる。

「虎白の特徴の一つをわかりやすく表現しようと、今回はトリュフを使いました」と小泉氏が言うように、彼の料理はトリュフやキャビア、フォアグラ、フカヒレなど、他ジャンルの料理で使う食材が積極的に取り入れられている。と言っても、奇をてらおうとか、高級食材で“おいしさ増し”をしようといった考えはまったくない。そんなのは浅知恵。日本料理の幅と奥行きを広げることへの挑戦なのである。

「外国の食材を使っても、『和』の中の軸はブレない。日本料理の伝統的なスタイルを踏襲しながらも囚われず、日本の旬の食材そのもののおいしさと、それを引き出す調理法、組み合わせを突き詰めて、今までにないおいしさを表現する。それがいわば、虎白の料理哲学です。だから外国の食材をメインにドンと出すようなことは絶対にありません」

「虎白」小泉氏が作った蟹料理
ズワイガニの旬のおいしさを黒トリュフが香り高く引き立てる一品。ズワイガニのメスはすでに漁期が終了。この日は今季最後だった。ズワイガニは越前のもの。虎白では、冬はズワイガニ、夏は毛ガニがコースを彩る。器は埼玉県の陶芸作家、山田泰三(やまだたいぞう)氏のもの。虎白という店名を表現したかのような虎模様が渋い。

その言葉通り、今回の料理も、黒トリュフは蟹を引き立てるための脇役。「ズワイガニのオスとメスの両方を、蟹味噌と一緒にあえて、下に焼き茄子と白味噌の出汁を張り、上からスライスした黒トリュフを散らした」一品である。出汁は生姜、ニンニクのみじん切りと蟹の甲羅を一度油で炒めて、和風ビスクのように仕立てられている。蟹の身の甘さと、メスガニの卵のコクのある旨みに加えて、蟹の甲羅の香ばしさと白味噌のやさしい味わいが生きた出汁が一つに溶け合って、さらに黒トリュフ特有の香りが立つ。虎白でしか味わえないものである。

「日本料理には、旬の食材をおいしく食べる定番のものがあります。例えば『夏になると、鮎の炭焼き』というように。もちろんおいしいけど、ほかの店でも楽しめますよね。うちはそこから離れて、生きた鮎を丸ごと、まるで泳いでいるような姿のままに素揚げにして、トリュフのソースで食べるなど、新しい料理を提供しています。それでお客さまに『えっ、鮎って、トリュフと合わせると、鮎の苦味の新しい味わい方になるね』と喜んでいただいています。そこが楽しさ。作っている僕も楽しいんです。ほかにもフォアグラを根菜で炒めて溶かし、そこに出汁を入れて作った鼈甲餡を海老芋にかけるとか、ゆでた車海老をすり身状にしたものをつなぎなしで作るしんじょとか。今までにない形で楽しんでいただけるように創意工夫をしています」

虎白は、師匠の石川とともに腕を振るった石かわが移転した後、その誕生地を引き継ぐ形で2008年にオープンした。その時に石川氏に言われたのは、「新しいことに挑戦しろよ。自分で一生懸命考えて、好きにやってくれ。お願いね」ということ。その一言を胸に、期待に応えたいと歩んだ 十数年だったと言えよう。

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Photo Masahiro Goda Text Junko Chiba
※『Nile’s NILE』2018年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

小泉 瑚佑慈

虎白 小泉 瑚佑慈

Koji Koizumi
1979年神奈川県生まれ。調理師専門学校を卒業後、日本料理「岡ざき」で石川秀樹氏に師事。2003年、石川氏が開業した「石かわ」に、創業から従事。08年、姉妹店となる「虎白」の店主となり、キャビアやトリュフなども巧みに取り入れた日本料理を探求。『ミシュランガイド東京2016』で国内最年少三つ星シェフとなって以来、6年連続三つ星の評価を得ている。
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