リューズ | 飯塚隆太 時代と、自分のルーツ

フランスの伝統技術を引き継ぎなら、日本の食材、日本の四季、そして自分のルーツの表現にも積極的に取り組む「リューズ」の飯塚隆太氏。「時代とともに変わるもの、変わらないもの」を見据えて料理を作る。

令和の一皿のテーマは「不易流行」

「リューズ」飯塚隆太氏が作る令和の料理
日本古来の装飾品、勾玉(まがたま)の形に仕立てたアカザエビ。甘みの強い“雪下にんじん”のムースを敷き、昆布などの日本の伝統食材でとった出汁のジュレで囲む。山菜を盛り付け、春の香りを目一杯感じる一皿に。

「時代が流れても変わらない大切なものと、時代とともに変わるもの、両方がある。それがこの料理のテーマ」と、飯塚隆太氏。もっとも象徴的なのは、中央の勾玉形のアカザエビ。

「勾玉は、日本人が古来、お守りにしてきた存在。“日本らしさ”そして“変わらない強い思い”を表現しています」

料理では、フランス料理の伝統的な仕立てと、時代に合わせた軽やかさ、日本の春の表現が一体となっている。中央のアカザエビは、ゆでたその身に、アカザエビ風味のマヨネーズのゼリーをかけた、フランス料理の伝統技術「ショーフロワ」の仕立てだ。下に敷いたのは、故郷の十日町市の名産「雪下にんじん」のムース。フォンやコンソメを入れず、雪下にんじんの甘みをストレートに生かした。周囲には昆布、干し貝柱、干しエビでとった出汁のジュレを配す。「ニンジンのムースでフランス料理といえば、大先輩の五十嵐安雄シェフ(ル・マノアール・ダスティン)のスペシャリテ、“人参のムース コンソメジュレとウニ添え”です」と飯塚氏。

「フランスの味を日本に持ち帰った先輩がいて、私たちがいる。その世代の方々への敬意を込めたニンジンのムースです。かつ『我々世代が作るなら』と考え、日本の食材を用いたナチュラルな出汁を合わせました」

このジュレが、雪下にんじんや山菜の繊細な風味を、自然に引き立てる。

「旨すぎてはいけない。料理は時代とともにナチュラルになっています」

仕上げに、野生の山菜を盛り付ける。

「故郷新潟の里山は雪が深く、ようやく5月に山で山菜が採れる。遅いけれど、まさに春のエネルギーそのものを感じる味と香り。そうした“今の一瞬”を表現するのが、季節感を大事にする日本の文化です」

自身の体験が料理人としての自分の支え

ちなみに飯塚氏が平成を迎えたのは、ちょうど料理人として働き始めた年。料理人人生が平成時代と重なっている。「元号は意識しませんよ(笑)。ただ、30年間をふり返れば、いろいろあったとは思います」という。

また、「最近しみじみ思うのは、小さい頃の経験が料理人としての自分を支えている、ということ」と話す。例えば、子供の頃はおいしいと思わなかった山菜を今、口にすれば故郷の春の風景が目に浮かび、懐かしさがこみ上げる。自分の中にある核となる体験は、料理に反映される。

「料理で自分のルーツを意識する。この流れはますます強くなるのではないでしょうか。料理人は、料理だけをやっていればよいという時代は終わりました。サービス、空間、スタッフの統率、個性の出し方……すべてのバランスが大事。料理は、複雑といえば複雑ですが、シンプルといえばシンプル。“料理が好き”、“ゲストに満足していただきたい”というピュアな心に行き着くのですから」
リューズの飯塚隆太氏

地に足をつけて、料理人として歩を進めてきた飯塚氏。そんな彼が実感している、時代を超えて生きる哲学だ。

料理人・飯塚氏が語る、昭和の味、平成の味

調理師専門学校の研修旅行でフランスに行き、その時にトゥールダルジャンのパリ本店で食べる機会がありました。オーダーしたのは、スペシャリテの一つ「フォアグラ三皇帝風」。新潟時代にフォアグラのテリーヌは食べたことがありましたが、子供にとっておいしいものではなかったのです。それがトゥールダルジャンのフォアグラは、まだまだ子供の19 歳の僕の舌でも「 旨い」と思う感動する味だった。改めて世の中で“旨い”と言われているものは、万国共通、誰が食べても旨いって思えるものなんだぁ~と感動したのを覚えています。

平成に入ってからの衝撃的な味は、徳島の料亭「青柳」のアオリイカのお造り。恵比寿のシャトーレストラン ジョエル・ロブションで青柳さんとの大きなイベントがありました。その時、青柳さんたちが調理場として使ったのが、ちょうど僕がスーシェフをしていた1 階の「カフェフランセ」。僕は調理場のアテンド役として青柳チームに3 日間つきました。青柳には小山裕久さんはもちろん、かんだの神田裕行さん、龍吟の山本征治さんがいらして。最終日にイベントで提供したお互いの料理を交換して食べることになった時に、山本さんが作ってくれたのが、アオリイカと鳴門鯛のお造り。青柳のアオリイカといえば、分厚いアオリイカに蛇腹に包丁を入れるんです。これを口に入れた瞬間、イカがこんなに旨いのかと愕然としました。はらっとほどけるテクスチャーやねっちりとした甘みなど、包丁技によってこんなに味に違いが出るのかと驚き、日本料理の包丁技に興味を持つきっかけになりました。

Photo Haruko Amagata Text Izumi Shibata
※『Nile’s NILE』2019年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

飯塚隆太

リューズ 飯塚隆太

Ryuta Iizuka
1968年新潟県生まれ。専門学校卒業後、「第一ホテル東京ベイ」「ホテル ザ マンハッタン」等を経て、94年「タイユバン・ロブション」の部門シェフに就任。97年に渡仏し、「トロワグロ」「ジャンポール・ジュネ」等で修業。帰国後、ジョエル・ロブション氏の系列店で研鑽を積み、2005年「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」のシェフに。11年「レストラン リューズ」をオープン。12年版『ミシュランガイド東京』で一つ星、13年版以降は二つ星の評価を得ている。
このシェフについて