山陰の食のみやこ・鳥取県

鳥取県は「食の宝庫」なのだ!

鳥取県と聞いて誰もがまずイメージするのは砂丘と日本海だろう。食のみやこ・鳥取県を探訪する旅の起点としても、ここははずせない。豊かな食を概観しようと、鳥取砂丘を登ることにした。砂にずぶずぶと足を取られながら、急斜面を下って上り、息をはずませながら“てっぺん”にたどり着いたその時、群青色のきらめく日本海が視界いっぱいに広がった。

空と海と砂丘の織り成すその美しい景観を堪能しながら、食いしん坊たちは同時に日本海の海の幸に思いをはせるに違いない。とくに冬場は、ズワイガニのオスの松葉がに、メスの親がにを始め、赤ガレイ、サワラ、ハタハタなど、おいしい魚が豊富な時期。海を眺めていると、だんだん"想像の目”が海中を潜っていき、活発に行き交うたくさんの魚たちの姿を"幻視”してしまうくらいだ。

鳥取砂丘
鳥取砂丘の向こうに、日本海が広がる。12月初旬のこの日の海は、波が実に穏やか。春から秋に続く好天の日々が、一転して強風にあおられながら雪が舞う厳しい冬になるという。鮮やかに四季が移ろうこの地には、だから多彩な食材を豊富に産するのだと実感する。

「とっとりの台所」賀露の鳥取港へ

ここは現実の魚との出合いを求めて、市場に行くしかない。賀露の鳥取港に向かった。正午を回った時刻、さすがに漁船は出払っていて、港は翌朝未明のセリに備えるかのように、まさに嵐の前の静けさだった。それでも鳥取港海鮮市場「かろいち」は、活況を呈していた。ここは料理人や魚屋さんなどのプロにまじって県外や地元の買い物客も足繁く通うところ。文字通り、「とっとりの台所」である。

それにしてもなぜ日本海の魚は美味なのか。一言で言えば、東シナ海から流入する暖流・対馬海流と、間宮海峡付近からの寒流・リマン海流がぶつかるところだから。大きな潮目に沿ってスルメイカが“南北大移動”をし、暖流により水深100m付近まで温かいため、イワシやマグロなどが運ばれてくる。また「日本海固有冷水」という水塊があって、松葉がにやハタハタが暮らしやすい環境となっている。

  • 鳥取県のツバス
    ツバス(ブリ)。背が光っているのは新鮮な証拠。いかにも脂が乗っていて旨そうだ。
  • 鳥取県の赤ガレイ
    赤ガレイ。煮付けは鳥取県民の冬の食卓には欠かせないごちそう。
  • 鳥取県のシジミ
    日本海の海水が流入する汽水域、東郷池のヤマトシジミは粒が大きく、「黒いダイヤ」と呼ばれる。
  • 鳥取県のヨコワ
    ヨコワと呼ばれるクロマグロの幼魚。小さくても旨さは一人前!?
  • 松葉がに
    甲羅が11㎝以上の松葉がには、裏面に漁港名や船名を記載した特別なタグが付けられる。
  • 鳥取県の赤ばい
    赤ばい。ツブ貝の仲間で、刺し身にするととてもおいしい。

鳥取県は農産物も秀逸!

鳥取県の食材のすばらしさは水産物にとどまらない。農産物がまた秀逸。例えば大山山麓の新鮮な空気、水、良質な黒ボク土壌で育つ大山ブロッコリーは、柔らかく、甘みが強く、茎まで食べられる。また県西部を中心に作られる白ねぎは、とろけるように甘く、肉との相性が抜群だ。ほかに北栄町の「砂丘ながいも」と「ねばりっこ」の2ブランド、冷涼な気候を生かして栽培される日南町のトマトなど、季節を問わず"豊作"である。あと果物では、有名な二十世紀や新甘泉、なつひめ、秋栄と個性的な味わいの鳥取オリジナル品種がそろう日本なしが代表格。全国有数の産地だ。果物のもう一方の雄に、柿がある。渋柿ながら渋抜きをするととびきり甘くなる西条柿や、糖度17度程度の甘柿で肉質の緻密な花御所柿、甘柿の代表的な品種で、鳥取県産はとくに日持ちが良いと海外でも評判の富有柿などがある。これら農産物は、かろいちに隣接する地場産プラザ「わったいな」に集結している。

  • 鳥取県のねぎ
    白ねぎは砂丘地で栽培される代表的な作物。春ねぎ、夏ねぎ、秋冬ねぎと、周年栽培されている。
  • 富有柿
    八頭町、南部町などで栽培される富有柿。果実が大きく、果汁もたっぷり。非常に甘みが強い。
  • ねばりっこ
    「ねばりっこ」はその名の通り粘り気が強い。鳥取県園芸試験場がバイオ技術を駆使して開発した品種。
  • 星空舞
    鳥取県が30年がかりで開発した、星のように輝く新しい米「星空舞」。際立つツヤと甘みが自慢。
  • あたご
    「あたご」は重さが1kgにもなるビッグサイズの晩生種。「王秋」は晩生の赤ナシ品種。
  • 鳥取県のブロッコリー
    需要の伸びとともに栽培面積が拡大。初夏と秋冬には生産者が鮮度を保つため未明から収穫する。

わったいな、鳥取!

さらに鳥取には、「鳥取系」とも呼ばれる血統の鳥取和牛、黒豚と大山赤豚の組み合わせで誕生した豚の大山ルビー、鳥取地どりピヨなど、畜産物も豊富にそろう。

これら食材の充実ぶりは「すごい」の一言に尽きる。方言を借りるなら、「わったいな、鳥取!」である。


Photo Masahiro Goda Text Junko Chiba