銀座 小十 | 奥田 透 スイカ×鮎。奥田透、本領発揮

明快と複雑のバランス

日本料理らしい伝統と格調を備えながら、時に鮮やかに、時に悠然と素材の個性を表現する。と同時に、腹の底から「旨い」とうならせる強さを秘めている。それが奥田透氏の料理の特徴だ。今回は「スイカ料理」という変化球のテーマに対し、鮎を組み合わせて応えてくれた。味付けの妙でスイカと鮎を力強く引き立たてた、奥田氏の本領発揮の品である。

スイカは店を構えてから一番難しいお題だった!

銀座に店を構えて18年。その中で一番難しいお題をいただきましたよ」と笑う奥田氏。「スイカの料理だなんて、普段は思いつきませんから。でも、そのぶん、挑戦して面白い素材でした」と、考案してくれたのが今回の料理。カラリと揚げた鮎、スイカ、トマト、冷やした細うどんをともに楽しむ、色鮮やかで夏らしさ満載の一品である。

小十のスイカ料理
色鮮やかな赤黄のスイカ、フルーツトマト、躍るような姿に揚げた鮎。これらの下には冷やした細うどんが敷いてある。鮎にはスイカ風味の紅蓼酢がかかり、細うどんはスイカ果汁とトマトのエキス、魚醤で作る深い旨みのたれをまとう。さまざまな味わいと食感が楽しい、夏の一品。

鮎の腹はスイカの香り―これが出発点

出発点は、「スイカと鮎」という組合せ。「スイカ、といえば鮎の内臓。『鮎の腹はスイカの香りがする』とよく言われます。この二つの素材をベースに考えました」。そして「夏といえば、そうめん(笑)。これを組み合わせたら面白いかな、と」。ただしそうめんは盛り付けたら団子状にくっついてしまう。そこで、細うどんを冷やして盛り付けることにした。

スイカ、揚げた鮎、冷やし細うどん。これでメインとなる素材は出そろった。ここに施されるのが、スイカと鮎の風味を格段に高める、複雑で力強い二つの味付けだ。

まず一つ目の味付けは、鮎にかける「スイカ風味の蓼酢(たでず)」。これは、すりつぶした紅蓼をスイカの果汁でのばし、米酢、砂糖で調味した上で、葛でゆるくとろみをつけて作る。ピリッと辛い蓼、米酢と砂糖が作る甘酸味、スイカ果汁が持つ独特の瓜の香り。これらが合わさることで、鮮やかで力強い味と清涼感を併せ持つ蓼酢ができ上がる。――揚げた鮎に、とろりとかかるこの蓼酢。鮎の醍醐味である身の繊細な旨みと内臓の苦みを引き立て、生き生きとした、かつ奥行きのある味わいに仕上げる。

二つ目の味付けは、細うどんにからめるタレだ。これは、すりおろしたトマトをゆっくりとペーパーで漉こし、抽出した、トマトの透明なエキスがベース。スイカの果汁を加え、鮎の魚醤(ぎょしょう)で味をつける。

「イメージは〝トマト風味のスイカそうめん〟。うどんをスイカ味で食べるために、トマトの力を借りました。さらに〝鮎つながり〟で、味付けには鮎魚醤を使います」

トマトのエキスはフレッシュさがあり、かつ旨みも備えている。ここに、スイカ果汁の清涼感と甘みが重なり、さらに鮎の魚醤の骨太ではっきりとした旨みもプラス。さわやかでありながら、しっかりとした骨格があるこのタレをからめた細うどんは、格別に旨い。

夏祭りのように楽しくにぎやか、ワクワクする夏のごちそう

「小十」奥田透氏

「今回の料理は、小十の料理としては冒険しすぎている(笑)。お客さまにお出しすることを想定はしていませんが、全体にバランスよくまとめることができたと思います」と奥田氏。

「私は時折自分の料理の幅を広げるために、普段とは異なる発想で料理を考案することがあります。この品はそんな例の一つです」

カリッとした鮎、シャリシャリしたスイカ、つるりとしたうどん、という食感の違いも印象的。味も、鮎の旨みと苦み、蓼酢の甘辛酸っぱい味、スイカの甘さと爽快感、旨みをまとった細うどん――という具合に変化に富む。まるで夏祭りのように楽しくにぎやか、それでいてまとまりがある。ワクワクする夏のごちそうだ。

Photo Masahiro Goda Text Izumi Shibata

奥田 透

銀座 小十 奥田 透

Toru Okuda
1969年、静岡県生まれ。高校卒業後、静岡の割烹旅館「喜久屋」、京都「鮎の宿つたや」、徳島「青柳」を経て、99年に静岡に和食店をオープン。2003年に銀座で「小十」を開業。13年にパリ、17年にはニューヨークに出店。『ミシュランガイド東京』では二つ星の評価を得ている。
このシェフについて