龍吟 | 山本 征治 夏の出合いもの―スイカと山椒

山椒はスイカの旨さの相乗効果を生むパートナー

「スイカには、柑橘の香りがよく合う」ところから発想。「龍吟」山本征治氏は「スイカの旨さの相乗効果を生むパートナー」として、ミカン科の山椒に白羽の矢を立てた。供されたのはスイカの甘みに、ピリリとスパイシーなパンチがきいたデザートだ。

龍吟のスイカ料理
「スイカには産地などにとくに強いこだわりはない」山本氏が使った“本日のスイカ”は、友人シェフが送ってくれた長野県松本市の「2代目ゴンちゃんスイカ」。上品な甘みが魅力だ。ノコギリで切り、包丁で表面を整えたという。

意外にも……と言うべきか、スイカは龍吟にとって「よく使う食材」。「定番にスイカジュースがあるし、ちょっと瓜系の香りのする鮎に合わせる蓼酢(たでず)には欠かせない」という。

「スイカには酸がないから、レモンを搾るなどして酸を加えると、スイカがスイカではなくなる、というのが僕の持論です。ただ香りには酸が欲しいので、コアントローやグラン・マルニエなど、オレンジ系の香りのするリキュールをよく使っています」

山本氏の今回の一皿は、そこが発想の原点。「柑橘系の植物なら何でもいけそう」と思い、ミカン科の山椒を〝合わせテーマ〟にした。この山椒が〝ただ者〟ではない。コブミカンの葉で香りづけしたシロップで炊いた実山椒をトッピングにし、さらにそのシロップを固めてゼリーにし、とろりと流しているのだ。

コブミカンの葉はタイでバイマックルーと呼ばれ、トムヤムクンなどに使われるスパイスだ。葉をちぎると、瞬時に爽やかにして強烈な香りの一撃を食らう。そのパンチ力が山椒に特有の香りをより豊かに増幅させていると感じる。

またスイカも、単なる〝ナマ〟ではない。表面に蜂蜜とコアントローを塗り、自然のさっぱりとした甘みに奥行きが加えられている。

トッピングにはほかに、木の芽の葉っぱやオーストラリアのタスマニア島で採れるピリリと辛いマウンテンペッパーベリー、紫色も鮮やかな露草の砂糖漬け、山本氏の故郷・香川に伝わる白くて中が空洞の「おいり」という嫁入り菓子などを使用。カラフルな彼らがあたかもスイカの赤いマットの上を跳ね回るようなポップなデザインで、見るだけで心が躍る。

ちなみに形状は、「スイカにトッピングをして、横に持ってサクサクッと食べていただく」ことをイメージした結果、ピザのようになったとか。扇形にカットされたこの〝スイカと山椒のピザ〟をかじると、シャキシャキの歯触りが心地良く、同時にスパイシーな香りが口中に広がる。夏気分全開になる逸品である。

スイカ好きの料理人は、スイカをおいしく楽しむ多彩な方法を熟知している

「龍吟」山本征治氏

「実はもう一つ、テーブルで丸のままのスイカをパーン! と割って、ぐしゃぐしゃに形の崩れたものをかぶりつくような〝料理〟も考えたんです。子供の頃のスイカ割り、あれがスイカの一番の食べ方じゃないかなという思いがあって。おいしいですよね、キンキンに冷えたスイカを、海辺でかち割って食べるのって」

遠い目をする山本氏。今はもっぱら、スイカはジュースで「ガバガバ飲む」スタイル。「日本のスイカは甘くて濃いので、ジュースにした方が、スイカよりスイカになる」そうだ。

「あとジャムがいい。30度で湯煎をかけながら真空蒸留器で沸騰させると、水分がどんどん飛んで、すごくフレッシュなジャムができます。それをスイカにかけて食べる。最高ですよ。またスイカのジュースにコアントローなどをたらすと、とても香りのいいカクテルになります」

スイカ好きを自認する山本氏は、スイカをおいしく楽しむ多彩な方法を熟知している料理人と言えよう。

山本 征治

龍吟 山本 征治

Seiji Yamamoto
1970年香川県生まれ。四国調理師専門学校を卒業後、14年間の修業時代を経て2003年、六本木に「龍吟」をオープン。12年に香港で、14年には台北でも「龍吟」をプロデュースする。「世界のシェフ100人」で5年連続世界トップ10入りを果たすなど、国内外で高い評価を得る。18年、東京ミッドタウン日比谷に移転。『ミシュランガイド東京』では11年連続で三つ星として掲載される。
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